第27話 ドラムスオブ……
ライブハウスの入口には、ペタペタとステッカーやポスターが貼り付けられている。誰にも見られないような天井にも。その中に黒猫を抱きしめる少女の絵があった。デフォルメされているが、短く伸ばした黒髪と白い肌が印象的な。
モデルとなった女性の名前は、猫柳理奈。Black Catsのドラムス担当だ。
解散ライブ当日の楽屋でのこと。
ステッカーの少女がそのまま大人になったような女性が、ぎゅっと黒猫を抱きしめた。対峙しているのは、同じバンドメンバーの遠山将吾だ。
「今日もだんまりか。本当に最後にするのか?」
責めるような問いに、目を伏せたまま理奈が頷く。それを見て、さらに問いかけようとする将吾だったが、もう一人のメンバー、夏野千里が制した。
「やめときな。理奈にも事情があるんだろ。とにかく、今日はいいライブにしようじゃないか。でもね、あたしはあんたを逃さないよ。Black Catsのドラムスはあんただ。事情があるならあるで、そいつが片付くまで、ずっと待つさ」
その言葉を黙って聞いていた理奈が、顔をあげて冷たくいう。
「悪いけど、いつまでも遊んでられないの。千里と将吾と二人でやりなよ。新しいメンバーを探してさ。付き合うのは今日まで。でも、最後までちゃんと叩くから、それは心配しなくていい。私はもう真面目な生活に戻るんだ。これで、さよならだよ」
真剣な眼差しで見つめ合うが、ふっとそらした千里の目が理奈の抱く黒猫と交差し、それで気が抜けたようになった。
「わかったよ、理奈。よし、いいライブにしよう。将吾も、もう言いっこなしだ」
「ああ、仕方ないな。もし、何か困っていることがあるなら、いつでも言ってこいよ」
寂しいような声に黙って頷く理奈の代わりに、黒猫が、にゃあと泣いた。




