第26話 御利益?
酔っ払った隣人、正確には上の部屋に住む夏野千里に振り回され気味の五郎である。あげくの果てに、ライブチケットを売りつけられる羽目になった。毎度あり〜、と千里は自分の部屋へ。一人になった五郎は、ほぼ空っぽの財布を手にして途方に暮れていた。とほほ、という文字が目に浮かぶ。
「鼻の下を伸ばしとるでや」
冷たく言い放つのは、五郎に取り憑く、自称式霊だか神様の温州蜜柑だ。
「ライブチケット、ちょっと見せてみい」
流し台に、ちょこんと座ってチケットを眺める。バンド名とともに、黒猫のシルエットが浮き彫りにされていた。
「これ、例の不吉な予兆のもんとちゃうか。鏡に血塗れの黒猫が映ったやつ。予言か警告か、そんなんあったやろ」
「ああ、そういやあったな。んなことより、この空の財布をどうするかだ。まさか1枚100円引きの3枚で300円引き、銭湯の代金300円分か? 安くなってる以上に赤字なんだけど。血塗れってのは、そういうこと? 大赤字になるって警告?」
「え〜? それ、違うんちゃう。もっとエグい感じやったし、財布が空っぽなんは、いつものことやん」
「飲まず食わずでも平気な蜜柑にはわかるまい。賄い飯も食い損ねて大損だ」
それはさておき、と、ライブチケットを前に、腕を組んで考え込む五郎である。
「このチケットどうするかな」
「三姉妹にやったらええんとちゃうか」
「でもなぁ、音楽関係は禁句じゃないか?」
「音楽がらみの喧嘩は音楽で解決や。千里はんの様子からしてロックバンドやろ。葛音はんはロック系が好きみたいやで丁度ええ。美琴はんもライブやからこそ、ええんとちゃうか。雰囲気と体に響く振動だけでも楽しいと思うで?」
「まあ聞いてみるか」
「おお、言うてみたらええ」
前向きに語りながら、葛音はん、怒ってくるかもしれへんなと思っていた。さらに不吉な予兆のことも気になるが、まあええかと結論づける。もし、神様に血液型があれば、間違いなくO型の蜜柑であった。




