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湯けむり怪異譚「ぶらぶら」  作者: 秋野きつ
第4章 恋する季節
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第100話 物思いの蜜柑


 夏の幻のような出来事が過ぎ去り、季節は秋に入っていた。食欲の秋、読書の秋、芸術の秋、運動の秋などと言われるが、ふと物思いに耽りたくなる。そんな気怠い季節でもある。


 ここにも一人〈?〉、物思いに耽る者がいた。


 小さなくまのマスコットに宿る自称式霊だか神様の温州蜜柑だ。部屋の隅で珍しく沈黙しており、そうしていると、ただの愛らしい人形にしか見えない。同じく居候にして古き式神の佳乃が、


「さっきから黙りこくって。何を考えているんです? どうせ、ろくなことじゃないでしょうけど」


と、蜜柑の様子を見咎めるも、


「ん? うん、そやな」


と上の空の返事だ。


「蜜柑、聞いてるの?」


「うん」


「聞いてないでしょう?」


「うん」


「蜜柑のあほ」


「うん」


「……本気で聞いてないわね」


 イラっときて、ちょっかいを出しに近付いたところ、蜜柑が不意に顔を上げた。


「なあ、佳乃」

 と真剣な口調でいう。「ちょっと触らせてくれへん? ええやろ? ちょっとだけ、ちょっとだけや」


「な、ななな、なんでよ。なに言ってんの」


「な? ええやんか。ちょっとだけや」


「い、いや! いやよ。こ、こら……」


 逃げようとする佳乃に迫る蜜柑の頭を、ぱしんと五郎が叩いた。


「なにやってんだ」

 

「なにって、ちょっと触らせてもらおうと思っただけやんか。ん? ああ、なんや勘違いしとるんかいな。こんな、つるぺたすとんに興味ないわ」


 ぱしんと今度は佳乃だ。不機嫌そうな顔で蜜柑の頭を叩いた。


「なんやねん。興味ある方がええんか? いや、ちょっと試したいことがあってな。ここのところ、目玉の化物やら大海鼠おおなまこやら、いろいろあったやろ。なんやこうレベルアップっちゅうか、ちょっと新たな力に目覚めてな。さすがわてや。五郎はん、わて、自分の才能が怖いわ」


「はいはい」


 軽くあしらって五郎は雑誌に目を落とした。クッキー片手のくつろいだ様子である。


「五郎はん、どんな力か気になるやろ?」


「いや、別に」


 気がなさそうに漫画雑誌のページをめくる五郎に、さらに言い募る。


「別にて、そんな。なあ、気になるなら見せたってもええんやで。見たいやろ?」


「なんだ、引っ張るなよ。クッキーが欲しいのか」


「ちゃうわ! いや、くれるんならもらうけども」


「あ、すまん。これで最後だった」


「五郎はん……」


 がっくりきた蜜柑だったが、一人くつろぐ五郎の姿に、だんだん腹が立ってきた。


「そっちがそういう態度をとるんなら、こっちにも考えがあるで!」


 とてとてと近付くと、五郎が読んでいる漫画雑誌に手を触れて、にやりと笑う。


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