第九話 規格外
「儂の負けじゃ!」
ガレスの宣言に、訓練場は騒然となった。
「ギルドマスターが負けた……。」
「あり得ねぇ。」
「しかも相手は素手だぞ。」
冒険者たちは信じられないという表情で柚を見つめる。
一方の柚は首をかしげていた。
「もう終わり?」
「ああ。」
ガレスは折れた木剣を眺めながら笑う。
「これ以上は試験にならん。」
「本気でやれば訓練場が壊れる。」
柚は少し残念そうに肩を落とした。
「もっと強い人かと思った。」
その一言に、冒険者たちがざわつく。
ギルドマスターを相手に、そんな感想を言える者などいない。
だがガレスは怒るどころか、豪快に笑った。
「はっはっはっ!」
「若いのに大した度胸じゃ!」
そして視線を暁へ向ける。
「さて、次はお前さんじゃな。」
暁は静かに前へ出る。
「よろしくお願いします。」
ガレスは暁をじっと見つめた。
数秒の沈黙。
やがて、小さく笑う。
「……いや、やめておこう。」
「え?」
柚が目を丸くする。
「戦わないの?」
ガレスは頷いた。
「必要ない。」
「さっきの勝負を見ておったが、お前さんは終始落ち着いておった。」
「柚が押されても慌てず、勝っても驚かん。」
「つまり、お前さんにとっては予想通りの結果だったということじゃ。」
暁は否定も肯定もしない。
黙ったまま立っている。
ガレスは苦笑した。
「そんな相手と続けて戦えば、本当に訓練場が壊れかねん。」
柚は笑って暁の肩を軽く叩いた。
「暁も強いよ。」
暁は柚を見て短く返す。
「柚も。」
ガレスはそのやり取りを見て、また笑った。
「息がぴったりじゃの。」
「長い付き合いか?」
「生まれる前から。」
柚が即答する。
「母さん同士が友達で、家も隣だったから。」
「気付いたらずっと一緒。」
ガレスは感心したように頷いた。
「なるほどのう。」
そして受付嬢へ振り返る。
「登録じゃ。」
受付嬢は慌てて書類を抱えてやって来た。
「ギルドマスター……ランクはどういたしましょう?」
本来なら測定器で能力を測定し、Fランクから始まる。
だが、その測定器は二つとも粉々になってしまった。
ガレスは腕を組む。
「最低でもSランク。」
受付嬢は目を見開いた。
「Sランクですか!?」
周囲の冒険者たちもどよめく。
「新人がSランク?」
「聞いたことねぇぞ!」
受付嬢は困ったようにガレスを見る。
「ですが規則では……。」
「分かっとる。」
ガレスは頷いた。
「本来ならFランクからじゃ。」
「じゃが、この二人をFやEに放り込めば、依頼の方が壊れる。」
周囲から苦笑いが漏れる。
確かに、高ランク魔獣を素手で倒すような二人が初心者向けの依頼を受ければ、討伐対象が気の毒なくらいだ。
アルベルトも一歩前へ出る。
「私もガレス殿の判断に賛成です。」
「この二人の実力は、私が保証いたします。」
受付嬢は深く一礼した。
「承知いたしました。」
「藤堂柚様、神崎暁様。」
「本日より、お二人を特例Sランク冒険者として登録いたします。」
柚は暁を見る。
「Sランクって強い人?」
「多分。」
「よく分かんない。」
「俺も。」
その会話を聞いたガレスは大笑いした。
「はっはっはっ!」
「自分たちがどれほど規格外か、まるで分かっておらん!」
その日。
冒険者ギルド始まって以来初めて、登録初日でSランクとなる二人が誕生した。
そしてその知らせは、わずか数日で国中へ広がっていくことになる。




