第八話 ギルドマスター
ガレスが一気に間合いを詰める。
木剣が風を切り、柚の肩へ向かって振り下ろされた。
「速っ!」
柚は横へ飛び、紙一重でかわす。
木剣が地面を叩き、鈍い音が響いた。
「ほう。」
ガレスは嬉しそうに笑う。
「今のを避けるか。」
「危なかったぁ。」
そう言いながらも、柚は笑っている。
次の瞬間。
地面を蹴った。
「今度はあたし!」
一気に懐へ飛び込む。
ガレスは木剣を横へ払う。
だが。
「甘い。」
柚は低くしゃがみ込み、そのまま懐へ潜り込んだ。
「なっ!」
ガレスの目が大きく見開かれる。
ドンッ!!
柚の拳がガレスの腹へ突き刺さる。
「ぐっ!」
ガレスの身体が数歩後ろへ下がった。
訓練場が静まり返る。
「ギルドマスターが……。」
「押された……?」
誰もが目を疑っていた。
ガレスは腹を押さえながら笑う。
「痛いのう。」
「でも、まだまだじゃ。」
その目が鋭くなる。
「次は少し速く行くぞ。」
ガレスの姿が消えた。
「えっ!」
気付いた時には、木剣が目の前まで迫っている。
柚はとっさに両腕を交差させた。
バンッ!!
衝撃で数メートル後ろへ滑る。
「うわっ!」
それでも倒れない。
「すご。」
柚は笑った。
「やっと強い人に会えた。」
その言葉に、ガレスも笑う。
「儂も久しぶりじゃ。」
「こんなに楽しめる相手はな!」
二人は同時に地面を蹴る。
拳と木剣が何度もぶつかり合う。
ドンッ!
バンッ!
ガキィン!
訓練場に激しい音が響き続けた。
冒険者たちは誰一人として声を出せない。
「あの子、本当に素手か……。」
「ギルドマスターと渡り合ってるぞ……。」
「信じられねぇ……。」
アルベルトも目を見開いていた。
「まさか、ここまでとは……。」
リリアは目を輝かせる。
「柚さん、かっこいい……!」
一方、暁だけは腕を組んだまま静かに見ていた。
「まだ余裕ある。」
その一言に、アルベルトが驚く。
「まだ本気ではないと?」
暁は小さく頷いた。
「うん。」
その時だった。
「はあっ!」
柚が大きく踏み込む。
渾身の右ストレート。
ガレスは木剣で受け止めようとした。
――しかし。
バキッ!!
木剣が真っ二つに折れた。
「なっ!?」
ガレスが目を見開く。
勢いを失わない拳は、そのままガレスの鼻先でぴたりと止まった。
あと数センチ。
当たっていれば、勝負は決まっていた。
訓練場は完全な静寂に包まれる。
柚は拳を下ろした。
「あ、木剣折っちゃった。」
ガレスは折れた木剣と柚を見比べる。
そして――。
「はっはっはっ!」
腹を抱えて笑い出した。
「参った!」
「儂の負けじゃ!」
その宣言に、訓練場中がどよめいた。
ギルド最強と呼ばれる男が、自ら敗北を認めたのだった。




