第八十七話 カイルの中の力
「カイル……。」
シロは、静かにその名を口にした。
黒い欠片は、まだ微かに光っている。
暁が周囲を警戒しながら尋ねた。
「本当にカイルなのか?」
「分からない。」
シロは首を横に振った。
「でも……この力を感じた時、最初に浮かんだのがカイルだった。」
アベルは何も言わなかった。
その反応を見て、柚が気づく。
「アベルさん?」
「……俺も、カイルだと思う。」
「やっぱり?」
「ああ。」
アベルは黒い欠片を見つめた。
「千年前、カイルはシロの力を守る役目を引き受けた。」
「そんな話、聞いてない。」
シロが驚く。
「お前の記憶から消したからな。」
「……。」
シロは少し複雑な表情をした。
まただった。
自分が知らなかった千年前の出来事。
「じゃあ、カイルは私の力を持っていたの?」
「正確には違う。」
アベルが答える。
「お前の力の一部を、カイルの身体に宿した。」
「身体に……?」
「お前が眠っている間に、その力を守るためだ。」
暁が眉をひそめる。
「でも、カイルは今も生きている。」
「ああ。」
「なら、その力もまだカイルの中に?」
「その可能性が高い。」
その時だった。
黒い欠片が突然砕けた。
パリンッ!
「!」
全員が身構える。
砕けた欠片から黒い煙が立ち上り――
一瞬だけ、映像が浮かび上がった。
銀色の髪。
赤い瞳。
カイルだった。
『シロ。』
映像の中のカイルが、こちらを見ている。
『もし、お前がこの場所まで辿り着いたなら――』
シロの目が大きくなる。
『俺の中にある力を、返す。』
「……カイル。」
『ただし、一つだけ覚えておいてほしい。』
カイルの表情が険しくなる。
『その力を取り戻せば、お前は千年前より強くなる。』
映像が揺らぐ。
『同時に――黒衣の男にも、お前の居場所が分かる。』
「!」
柚が息を呑む。
「じゃあ、力を取り戻したら……」
「あいつに見つかる。」
暁が続けた。
アベルは頷いた。
「そういうことだ。」
シロは黙っていた。
力を取り戻せば、黒衣の男と戦える。
けれど、それは同時に自分が狙われるということでもある。
映像のカイルが最後に言った。
『それでも、お前が力を必要とするなら――』
カイルが微笑む。
『俺は、お前に返す。』
そこで映像が消えた。
部屋に静寂が戻る。
柚がシロを見る。
「どうする?」
シロは少しだけ目を伏せた。
そして――
「取り戻す。」
迷いのない声だった。
「この力が私のものなら、私が持つ。」
暁が頷く。
「俺も賛成だ。」
「私も。」
柚も笑った。
アベルだけが、少し複雑そうな顔をしていた。
「……アベル?」
「いや。」
アベルは首を横に振る。
「ただ、カイルがいる場所を探さなければならない。」
「分かるの?」
「……一つだけ、心当たりがある。」
アベルが振り返る。
「千年前、カイルが最後に向かった場所だ。」
シロが尋ねる。
「どこ?」
アベルは、静かに答えた。
「北の古城。」
その言葉を聞いた瞬間。
部屋の壁に、新たな文字が浮かび上がった。
『カイルは、まだ待っている。』
シロはその文字を見つめた。
そして――
「行こう。」
千年前に失われた力を取り戻すため。
そして、かつての仲間――カイルに会うために。
シロたちは、北の古城へ向かうことを決めた。




