第八十六話 奪われた力
黒い扉が、ゆっくりと開いた。
その先には、細く長い通路が続いていた。
壁には古い魔法陣がいくつも刻まれている。
「……かなり古いな。」
ルークが壁を調べる。
「この場所は、王城が建てられるより前から存在していた可能性があります。」
「王城より前……?」
柚が驚く。
シロは通路の奥を見つめていた。
なぜか、見覚えがある気がする。
「私……ここを知ってる。」
「本当か?」
暁が振り返る。
「うん。でも、思い出せない。」
シロが一歩進む。
すると、壁の魔法陣が銀色に光った。
次々と灯りがともっていく。
「シロに反応してる……。」
柚が呟く。
「昔、私が使っていた場所なのかもしれない。」
四人は慎重に通路を進んだ。
しばらくすると、広い部屋に出た。
部屋の中央には、大きな台座があった。
その上には――
何もない。
「空っぽ?」
柚が台座を覗き込む。
しかし、シロは台座を見た瞬間、立ち止まった。
「……ここにあった。」
「何が?」
「私の力。」
アベルが険しい顔になる。
「……やはり、ここか。」
暁がアベルを見る。
「知ってるのか?」
「ああ。」
アベルは台座に近づいた。
「千年前、シロの力の一部がここに保管されていた。」
「保管?」
「シロが眠る前、自分の力を分けたんだ。」
シロが目を見開く。
「私が……?」
「ああ。」
アベルは続けた。
「全部を封じてしまえば、目覚めた時に力を取り戻せない可能性があった。だから、最低限の力だけを身体に残した。」
「じゃあ……ここにあった力は?」
柚が尋ねる。
アベルは台座を見つめた。
「なくなっている。」
「誰かが持ち去った?」
「おそらくな。」
その時だった。
部屋の奥から――
カツン。
何かが落ちる音がした。
全員が振り返る。
「誰かいる!」
暁が剣を抜く。
しかし、そこには誰もいない。
床に落ちていたのは、小さな黒い欠片だった。
シロが近づく。
「……これ。」
銀色の魔力が、欠片に触れた。
すると――
ズキッ。
「っ……!」
シロが胸を押さえる。
「シロ!」
柚が支える。
その瞬間、シロの頭に映像が流れ込んできた。
千年前。
この部屋。
台座の前に立つシロ。
そして、その向かいには――
黒衣の男。
『その力を渡せ。』
『嫌。』
『お前一人では、この力を守れない。』
『だから、誰にも渡さない。』
シロは力を台座へ置いた。
黒衣の男が手を伸ばす。
しかし、銀色の結界がそれを阻んだ。
『今は触れられない。』
シロはそう言っていた。
だが――
映像が途切れる。
シロが目を開ける。
「……黒衣の男は、千年前からここを狙ってた。」
アベルが頷く。
「そういうことだ。」
「でも、結界があったんだよね?」
柚が尋ねる。
「ああ。」
「じゃあ、どうやって力を持ち去ったの?」
誰も答えられなかった。
その時。
部屋の壁に、黒い文字が浮かび上がった。
『力は奪われたのではない』
一行。
そして、その下に続きが現れる。
『選ばれた者へ渡された』
「……選ばれた者?」
暁が呟く。
シロの表情が変わった。
「まさか……。」
シロは黒い欠片を見つめる。
そして、ある人物の顔が頭に浮かんだ。
「カイル……?」
その瞬間。
黒い欠片が強く光った。
部屋中に、低い声が響く。
『――その力は、今も生きている。』
シロたちは息を呑んだ。
千年前に失われたと思っていた力。
それは今も、誰かの中に存在していた。




