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異世界に落ちた最強ヤンキー女子、幼なじみと無双します。  作者: S@Y@


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第八十四話 自分で選んだ眠り


「……私が?」


 シロは、黒衣の男を見つめた。


「私が、自分から眠ったっていうの?」


「ああ。」


 黒衣の男は淡々と答える。


「千年前、お前は自分の力が危険なものになることを理解していた。」


「違う!」


 アベルが声を上げた。


「シロは、誰かを傷つけるために眠ったんじゃない!」


 黒衣の男が笑う。


「そんなことは言っていない。」


「なら、何が言いたい?」


「事実を言っているだけだ。」


 黒衣の男はシロへ視線を戻した。


「お前は自分の力を守るためではなく――誰にも利用されないために、眠ることを選んだ。」


 シロは胸元の銀色の紋章に触れた。


 確かに、思い出した。


 千年前。


 自分の力が暴走したわけではない。


 ただ、自分の力を狙う者がいた。


 王族も。


 黒衣の男も。


 そして、その力によって傷つく人たちもいた。


「……だから、眠った。」


 シロが呟く。


「みんなを守るために……」


「そうだ。」


 黒衣の男が答えた。


「だが、お前には一つ誤算があった。」


「誤算?」


「お前が眠っている間に、世界は変わった。」


 黒衣の男の手に、黒い魔力が集まる。


「そして、お前が目覚めた今――」


 黒い魔力が一気に膨れ上がった。


「千年前に終わらなかったことを、今度こそ終わらせる。」


「させるか!」


 暁がシロの前に立つ。


 柚もすぐ隣に並んだ。


「シロには、もう誰にも利用させない!」


「私たちがいるからな。」


 暁が剣を構える。


 シロは二人の背中を見つめた。


 千年前とは違う。


 あの時、自分は一人で全てを背負おうとした。


 けれど今は違う。


 柚がいる。


 暁がいる。


 アベルも、ここにいる。


「……そうだね。」


 シロは静かに笑った。


「私はもう、一人じゃない。」


 銀色の紋章が強く輝く。


 黒い亀裂は、完全に消えていた。


「なに……?」


 黒衣の男の表情が初めて変わった。


 シロの周囲に、銀色の魔力が広がっていく。


「千年前の私は、眠ることを選んだ。」


 シロは黒衣の男を真っ直ぐ見据えた。


「でも――」


 一歩、前へ出る。


「今の私は、自分で決める。」


「何をするつもりだ?」


「あなたを止める。」


 銀色の光が弾けた。


 黒衣の男が後ろへ飛び退く。


「くっ……!」


 その瞬間、アベルが動いた。


「今だ!」


 剣が黒衣の男へ迫る。


 しかし――


 黒衣の男の姿が黒い霧へと変わった。


「今日はここまでだ。」


「待て!」


 アベルが叫ぶ。


 黒い霧は床へ沈み、消えていく。


 残されたのは、静まり返った記憶の部屋だけだった。


「……逃げた。」


 暁が剣を下ろす。


「でも、何か分かったな。」


 柚がシロを見る。


「シロは自分から眠ることを選んだ。でも……記憶を消したのはアベルさんなんだよね?」


「ああ。」


 アベルは目を伏せた。


「シロが目覚めた時、千年前の出来事に縛られないようにするためだった。」


「じゃあ……」


 シロがゆっくり口を開く。


「私が忘れていた記憶は、全部アベルが消したの?」


「全部ではない。」


 アベルは首を横に振った。


「俺が消したのは、最後の記憶だ。」


「最後の記憶……?」


「お前が眠る直前に交わした、ある約束の記憶だ。」


 シロの目が見開かれる。


「約束……?」


 アベルは苦しそうに笑った。


「ああ。」


 そして、シロを真っ直ぐ見つめる。


「それを思い出せば、お前はきっと――千年前の自分が何を恐れていたのかも、思い出す。」


「……何を恐れていたの?」


 アベルは答えなかった。


 ただ、静かに言った。


「それを知る覚悟ができたら、俺が話す。」


 シロはしばらく黙っていた。


 そして――


「……ううん。」


 顔を上げる。


「今、知りたい。」


 アベルの表情が固まった。


「シロ……」


「私はもう逃げない。」


 シロの銀色の瞳が強く輝く。


「千年前の私が何を選んだのか。」


「何を恐れていたのか。」


「全部、知りたい。」


 アベルはしばらく黙ったあと――


「……分かった。」


 静かに頷いた。


「なら、話そう。」


 千年前。


 シロが眠りにつく直前。


 最後に交わした、もう一つの約束を。

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