第八十三話 狙われた記憶
「お前の記憶を消した理由を知っている。」
アベルの言葉に、シロは息をのんだ。
「黒衣の男が……?」
「そうだ。」
アベルは剣を握り直す。
「奴は千年前から、お前の記憶を取り戻させまいとしている。」
柚が尋ねる。
「でも、どうして?」
アベルはシロを見る。
「お前が真実を思い出せば、奴にとって都合が悪いからだ。」
「その真実って何?」
「……まだ言えない。」
柚が不満そうに眉をひそめる。
「またそれ?」
「シロのためだ。」
「知らないままのほうが危険だよ。」
アベルは黙る。
シロが一歩前へ出た。
「私が決める。」
「え?」
「知りたい。」
シロはアベルを見つめる。
「たとえ怖いことでも、自分のことなら知りたい。」
アベルはしばらくシロを見ていた。
やがて、静かに頷く。
「……分かった。」
「ただし、ここでは話せない。」
その瞬間――
ズズズズ……。
地下室の床が揺れた。
「何!?」
柚が周囲を見る。
壁に黒い亀裂が走る。
カイルが叫ぶ。
「全員、離れて!」
バァン!!
壁が弾け飛んだ。
黒い煙の中から、黒衣の男が姿を現す。
「見つけたぞ。」
シロを見つめる。
「魔王。」
柚がシロの前に立つ。
「今度は何をしに来たの?」
「決まっている。」
男の手に黒い魔力が集まる。
「記憶を取り戻す前に、お前を連れていく。」
暁が構える。
「させるか!」
男が笑う。
「二人の異世界人も、ずいぶん邪魔をしてくれる。」
「ならば――。」
黒い魔力が一気に広がる。
「先に、お前たちから消す。」
「柚!」
暁が柚の腕を掴む。
「下がれ!」
しかし、柚は動かない。
「嫌。」
「私たちが狙われてるなら、なおさらシロから離れない。」
暁も頷く。
「そういうことだ。」
三人が並ぶ。
その瞬間。
シロの胸元に銀色の紋章が浮かび上がった。
男が目を細める。
「……その紋章。」
「やはり、目覚め始めたか。」
シロが尋ねる。
「あなたは、この紋章を知ってるの?」
男は笑った。
「知っているとも。」
「それは、千年前にお前が最後に使った力だ。」
シロの表情が変わる。
「最後に……?」
男は続ける。
「お前はあの力で、俺の計画を一度潰した。」
「だから、お前の記憶を消した。」
シロが驚く。
「あなたが?」
「いや。」
男は首を横に振る。
「俺ではない。」
アベルが一歩前へ出る。
「……。」
男はアベルを見る。
「お前が消したんだろう?」
シロがアベルを見る。
「アベル……。」
アベルは目を伏せる。
「そうだ。」
「俺が、お前の記憶を消した。」
「でも――。」
アベルはシロを見る。
「それは、奴の命令ではない。」
男が笑う。
「そうだ。」
「アベルは、俺を裏切った。」
柚が驚く。
「じゃあ……。」
黒衣の男がシロを見る。
「千年前、お前を救おうとしたのはアベルだ。」
「そして、お前を封印したのもアベルだ。」
シロは混乱する。
「……どういうこと?」
男は答えを告げる。
「お前は封印されたんじゃない。」
「自分から眠ったんだ。」
シロの目が大きく開く。
「……私が?」
男は笑う。
「そう。」
「そして、お前自身が――。」
「千年後まで記憶を封じた。」




