第八十二話 消された記憶
「誰かに、消されてる。」
シロの言葉に、柚が水晶を見る。
「じゃあ、まだ何か隠されてるってこと?」
「うん。」
シロは水晶に触れる。
すると――
パリン。
水晶に細い亀裂が入った。
「え?」
カイルが驚く。
「触っただけで……?」
亀裂は少しずつ広がっていく。
パキ……パキパキ……。
そして、水晶が砕けた。
その瞬間。
シロの頭の中に、最後の記憶が流れ込んできた。
「……っ!」
目の前に、封印された直後の自分がいる。
身体は動かない。
けれど、意識だけは残っていた。
『……誰?』
暗闇の中。
誰かが近づいてくる。
『お前の記憶は、ここで終わりだ。』
「この声……。」
シロが呟く。
聞き覚えのある声だった。
そして、その人物が顔を上げる。
「……嘘。」
シロの目が大きく開く。
柚が心配そうに声をかける。
「シロ?」
「誰だったの?」
シロは答えられない。
その時、記憶の中の人物がシロの胸に手を当てた。
『千年後、お前が目覚めた時――』
『真実を知れば、必ず私のところへ来る。』
『だから、今は忘れろ。』
黒い魔力がシロの身体を包む。
そして――
記憶が途切れた。
「……思い出した。」
シロが震える声で言う。
暁が尋ねる。
「誰だった?」
シロはゆっくり顔を上げた。
「私の記憶を消したのは……。」
その時。
背後から声がした。
「そこまでだ。」
全員が振り返る。
入口に、アベルが立っていた。
「アベル……?」
アベルは険しい顔でシロを見る。
「それ以上、思い出すな。」
柚が驚く。
「どうして?」
アベルは答えない。
シロが一歩前へ出る。
「アベル。」
「あなたは、知ってるんだよね?」
アベルの手がわずかに震えた。
「……何を。」
「私の記憶を消した人。」
アベルは黙り込む。
シロは続ける。
「誰なの?」
長い沈黙。
やがてアベルが口を開いた。
「……俺だ。」
「え?」
柚たちが言葉を失う。
アベルはシロを見つめる。
「お前の記憶を消したのは、俺だ。」
シロは動けない。
「どうして……?」
アベルは苦しそうに目を伏せる。
「お前を守るためだった。」
「でも、それだけじゃない。」
「俺は――。」
アベルが言葉を止める。
その瞬間。
王城の外から、大きな爆発音が響いた。
ドォォン!!
アベルが振り返る。
「……黒衣の男が来た。」
柚が構える。
「また?」
アベルは剣を抜く。
「今度は違う。」
「奴は王城を襲っているんじゃない。」
アベルがシロを見る。
「お前の記憶を消した理由を知っている。」
「だから、奴はお前を直接狙っている。」




