第七十七話 奪われた力
「もう、始まっている。」
カイルの言葉に、柚はシロを見る。
「じゃあ、どうすればいいの?」
カイルはすぐに答えた。
「黒い魔力をシロの中から取り出す。」
「どうやって?」
「分からない。」
「え?」
柚が驚く。
カイルはシロの胸元に浮かぶ紋章を見る。
「千年前にも、同じことがあった。」
「魔王の力を奪おうとした者が、シロの中へ黒い魔力を送り込んだ。」
シロが尋ねる。
「その時は、どうしたの?」
カイルは目を伏せる。
「……封印した。」
「シロの記憶と力ごと。」
柚は拳を握る。
「じゃあ、今回は別の方法を探そう。」
「またシロから全部奪うなんて、絶対にダメ。」
暁も頷く。
「黒衣の男に奪われる前に、こっちで何とかする。」
ルークが古文書をめくる。
「何か方法が残っているかもしれません。」
その時。
シロが突然、胸を押さえた。
「……痛い。」
「シロ!」
柚が支える。
「中で……何か動いてる。」
シロの胸元の銀色の紋章に、黒い線が広がっていく。
カイルが息をのむ。
「黒い魔力が、少しずつ広がっている。」
「このままだと、銀色の紋章が全部黒くなる。」
「全部黒くなったら?」
カイルは答えた。
「黒衣の男から、直接シロを操れるようになる。」
柚の顔が険しくなる。
「それだけは絶対にさせない。」
その瞬間。
シロの身体が大きく揺れた。
「うっ……!」
「シロ!」
柚が抱き支える。
シロの目が、一瞬だけ赤く光った。
そして――
「……柚。」
「うん!」
「私の中にいる。」
「誰かが……。」
シロが震える。
「私の身体を、動かそうとしてる。」
柚はシロの手を強く握った。
「負けないで。」
「私の声、聞こえる?」
「うん……。」
「じゃあ、私を見て。」
シロはゆっくり顔を上げる。
柚はまっすぐシロを見る。
「シロはシロだよ。」
「魔王だからって、誰かの言いなりになる必要なんてない。」
暁も隣に立つ。
「自分で決めろ。」
「戦うかどうかも、力をどう使うかも。」
シロは二人を見つめる。
そして――
「……うん。」
シロの身体から、銀色の光が広がった。
黒い線が、それ以上広がらなくなる。
カイルが驚く。
「止まった……。」
ルークも目を見開く。
「二人の声だけで、黒い魔力を抑えた?」
カイルは静かに答える。
「違う。」
「シロ自身が、力を制御したんだ。」
シロは息を整える。
「私……できる。」
その瞬間。
遠く離れた場所で、黒衣の男が目を開けた。
「……なるほど。」
男は自分の手を見る。
「もう少し時間が必要か。」
そして、静かに笑う。
「ならば――」
「先に、あの二人を消す。」
一方、地下室では。
柚たちが次の方法を探していた。
しかし、カイルが突然顔を上げる。
「……まずい。」
柚が振り返る。
「今度は何?」
カイルは静かに答えた。
「黒衣の男が、次に狙う相手が分かった。」
「誰?」
カイルは柚と暁を見る。
「君たち二人だ。」




