第七十四話 アベルの目的
「魔王を殺しに来た。」
アベルの言葉に、柚が一歩前へ出る。
「させない。」
暁も隣に並ぶ。
「シロには手を出させない。」
アベルは二人を見る。
「……異世界人か。」
「そうだけど?」
柚が睨む。
「シロは私たちの仲間。」
アベルは静かに剣を抜いた。
「ならば、お前たちも敵だ。」
「待って!」
シロが叫ぶ。
アベルの動きが止まった。
「どうして私を殺すの?」
アベルはシロを見る。
「お前が生きている限り、魔王の力を狙う者が現れる。」
「すでに黒衣の男が動いている。」
「このままでは、多くの人間が巻き込まれる。」
シロは首を横に振る。
「だから私を殺すの?」
「それしか方法がない。」
「違う。」
シロはアベルをまっすぐ見た。
「私が力を制御できればいい。」
アベルの目がわずかに揺れる。
「……制御だと?」
「うん。」
シロは手を握る。
「今日、魔獣を助けた。」
「私の力で、あの子を操っていた黒い紋章を消した。」
アベルは黙っている。
シロは続ける。
「私は、誰かを傷つけるためにこの力を使いたくない。」
「だったら、私を殺すんじゃなくて……。」
「私が力を使えるようになるのを手伝って。」
「……。」
アベルは答えない。
カイルが口を開く。
「アベル。」
「千年前と同じことを繰り返すつもり?」
アベルがカイルを見る。
「お前には関係ない。」
「ある。」
カイルは一歩前へ出る。
「僕は、あの時も止められなかった。」
「今度こそ、シロを守る。」
アベルの表情が険しくなる。
「……お前は何も分かっていない。」
「何が?」
「魔王の力が完全に戻れば、シロ自身が力に飲み込まれる。」
シロが目を見開く。
「私が……?」
アベルは頷く。
「千年前もそうだった。」
「最後には、お前自身が自分の力を抑えられなくなった。」
「違う!」
カイルが叫ぶ。
「シロは――」
「お前はあの場にいなかった。」
アベルが遮る。
「最後にあいつを見たのは俺だ。」
シロは俯く。
「……私、本当に暴走したの?」
アベルは答えない。
その沈黙が答えのように感じられた。
柚はシロの肩に手を置く。
「シロ。」
「大丈夫。」
「今のシロは、千年前のシロとは違う。」
シロが顔を上げる。
柚は笑った。
「だって、今は私たちがいるから。」
暁も頷く。
「一人で力を抑える必要はない。」
アベルは二人を見つめる。
「……お前たちは、本気で魔王を守るつもりか。」
「うん。」
柚は迷わず答えた。
「シロが自分で決めるまで、私は味方でいる。」
アベルはしばらく黙っていた。
やがて剣を下ろす。
「……分かった。」
柚が驚く。
「え?」
「今日は殺さない。」
アベルはシロを見る。
「だが、魔王。」
「次に会う時までに、自分の力を制御できるようになれ。」
「できなければ――。」
アベルは背を向けた。
「その時は、俺がお前を止める。」
そう言い残し、アベルは暗闇の中へ消えていった。
シロはその背中を見つめる。
「……アベル。」
そして小さく呟いた。
「私たちは、本当に昔……仲間だったんだ。」
カイルは答えなかった。
ただ、苦しそうに目を伏せていた。




