第七十三話 千年前の宿敵
「今も生きてる……?」
柚が聞き返す。
カイルは頷いた。
「正確には、生きているかは分からない。」
「でも、千年前の記録には、その人物の最期が書かれていない。」
暁が眉をひそめる。
「誰なんだ?」
カイルはシロを見る。
「魔王と最後に戦った男。」
「名前は――アベル。」
シロの胸がズキッと痛んだ。
「……アベル。」
その名前を口にした瞬間、頭の中に映像が浮かんだ。
真っ暗な場所。
向かい合う二人。
黒髪の少女と、長い銀髪の男。
男が剣を構えている。
『どうして……。』
少女が悲しそうに言う。
『私たちは、一緒に戦ったじゃない。』
男は答えない。
ただ、剣を握り直す。
そして――
『お前が魔王だからだ。』
映像が途切れた。
「……っ!」
シロが頭を押さえる。
柚がすぐに支える。
「シロ!」
「大丈夫。」
シロは息を整える。
「少しだけ思い出した。」
カイルが尋ねる。
「何を?」
「アベルって人……。」
「私の仲間だった。」
カイルが目を伏せる。
「そう。」
「最初は、君の仲間だった。」
暁が尋ねる。
「じゃあ、どうして敵になった?」
カイルは答えた。
「魔王の力を恐れた人間たちに利用された。」
「アベルは、君を封印する役目を与えられた。」
シロが俯く。
「私を……封印した人。」
「でも、違う。」
カイルが首を横に振る。
「アベルは最後まで迷っていた。」
「君を封印する直前まで、助けようとしていた。」
柚が眉をひそめる。
「じゃあ、誰がシロを封印したの?」
カイルは少し黙った。
「当時の王家だ。」
「アベルは最後まで反対した。」
シロは拳を握る。
「じゃあ……。」
「アベルは私を裏切ったわけじゃない?」
「そうだ。」
カイルは頷く。
「だから、僕はあいつが生きているなら――。」
「敵ではないと思っている。」
その時。
地下室の奥から、突然声が響いた。
「……随分と都合のいい話をしているな。」
全員が振り返る。
「誰!?」
柚が構える。
暗闇から、一人の男がゆっくり歩いてくる。
黒い髪。
銀色の瞳。
腰には古びた剣。
カイルが息をのむ。
「……そんな。」
シロは男を見た瞬間、動けなくなった。
胸の奥が強く締め付けられる。
「あなた……。」
男はシロを見つめる。
「久しぶりだな。」
シロの目が大きく開く。
「……アベル。」
男は静かに笑った。
「ようやく会えたな。」
柚がシロの前へ出る。
「何しに来たの?」
アベルは柚を見る。
そして、冷たい声で言った。
「魔王を殺しに来た。」




