第六十八話 魔獣の本当の姿
魔獣の目から、黒い魔力が一筋流れ落ちた。
「……泣いてる?」
柚が呟く。
魔獣は苦しそうに頭を振る。
「グ……ル……。」
暁が構えを解く。
「待て。」
「こいつ、俺たちを攻撃したいわけじゃないのかもしれない。」
ルークが魔獣の額を見つめる。
黒い紋章には、ひびが入っていた。
「操るための魔力が、まだ残っています。」
「完全には消えていない。」
シロが一歩前へ出る。
「私が……やってみる。」
柚が振り返る。
「大丈夫?」
「うん。」
シロは魔獣へゆっくり近づいていく。
魔獣が唸る。
「グルル……。」
柚がすぐに構える。
「危なくなったら下がって。」
「分かった。」
シロは魔獣の目を見る。
「怖くないよ。」
魔獣は動きを止めた。
シロは胸元に手を当てる。
「あなたも……誰かに無理やり動かされてるんだよね。」
魔獣は答えない。
けれど、唸り声が少しずつ弱くなる。
シロの手から、淡い光が広がった。
「お願い。」
「もう、苦しまなくていいよ。」
光が魔獣の身体を包み込む。
すると――
黒い紋章が少しずつ薄くなっていく。
「……消えてる。」
ルークが驚く。
やがて、黒い紋章は完全に消えた。
魔獣の身体から黒い魔力が抜け落ちる。
巨体がその場に膝をついた。
「グゥ……。」
シロはそっと近づく。
そして、魔獣の頭に手を置いた。
「もう大丈夫。」
魔獣はしばらくシロを見つめていた。
やがて、ゆっくり立ち上がる。
そして――
柚たちに背を向けた。
そのまま、王都の外へ歩いていく。
「……行っちゃった。」
柚が呟く。
暁が笑う。
「助かったんだろ。」
「うん。」
シロも小さく笑った。
しかし、その時。
魔獣が突然立ち止まった。
「?」
振り返る。
そして、シロをじっと見つめる。
シロも見つめ返す。
すると魔獣は、低い声で一度だけ鳴いた。
「グル……。」
そのまま森の中へ消えていった。
ルークが考え込む。
「不思議ですね。」
「何が?」
「普通、魔獣があれほど素直に人間の言葉を受け入れることはありません。」
柚はシロを見る。
「シロだからじゃない?」
「魔王だから……。」
シロは首を横に振る。
「分からない。」
「でも、あの子が苦しんでるのは分かった。」
暁が頷く。
「それで十分だろ。」
その時だった。
「柚!」
レオンの声が響く。
「大変です!」
柚たちが振り返る。
レオンが一枚の紙を握りしめて走ってくる。
「先ほどの黒衣の男を追っていた騎士から、連絡が入りました。」
「何て?」
レオンは険しい顔で答えた。
「黒衣の男が、王都の地下へ向かったそうです。」
柚の表情が変わる。
「地下……?」
レオンが頷く。
「そして――」
「王城の地下にある封印の間を狙っている可能性があります。」
シロの顔から、笑顔が消えた。
「……黒い結晶。」
柚が拳を握る。
「急いで戻ろう。」
暁も頷く。
「今度こそ、止める。」
四人は王城へ向かって走り出した。




