第六十二話 追い詰める二人
「力ずくで連れていく。」
黒衣の男が一気に距離を詰めた。
「来るよ、暁!」
「ああ!」
柚と暁が同時に動く。
男の拳を柚が受け止める。
ガキィン!
反対側から暁が蹴り込む。
男は身体をひねってかわした。
「ちっ……!」
柚が追いかける。
「逃がさない!」
拳を振り抜く。
男は腕で防ぐが、勢いを殺しきれず後ろへ吹き飛んだ。
ドゴォン!
本棚に背中をぶつける。
「ぐっ……。」
「今だ!」
暁が踏み込む。
男は黒い魔力を放った。
「邪魔だ!」
黒い魔力が暁へ向かって飛ぶ。
しかし、暁はそのまま突っ込んだ。
「そんなもの!」
拳で黒い魔力を打ち消す。
そして、そのまま男の懐へ入り込んだ。
「終わりだ!」
ドンッ!
強烈な一撃。
男の身体が床を転がる。
「……っ。」
初めて、男が明らかに苦しそうな顔を見せた。
レオンが驚く。
「二人がかりとはいえ……ここまで追い詰めるとは。」
ルークも頷く。
「以前より明らかに動きが鈍っています。」
柚は拳を構えたまま、男を睨む。
「もう逃げないでよ。」
男はゆっくり立ち上がった。
「……なるほど。」
「お前たちを先に消す必要があるようだ。」
男の周囲に黒い魔力が集まる。
だが――
「やめて。」
シロの声が響いた。
全員が振り返る。
シロは男をまっすぐ見ていた。
「あなたは私を知ってるんだよね。」
男は黙る。
「だったら教えて。」
「私は、千年前に何をしたの?」
男の表情がわずかに揺れた。
「……。」
シロは続ける。
「私は本当に、世界を滅ぼそうとしたの?」
男は答えない。
その沈黙だけで、柚は何かを感じ取った。
「……違うんだ。」
男がようやく口を開く。
「お前は――」
その瞬間。
ズキン。
シロが頭を押さえた。
「うっ……!」
「シロ!」
柚が駆け寄る。
シロの脳裏に、知らない光景が一瞬だけ浮かんだ。
燃える街。
逃げ惑う人々。
そして――
自分と同じ姿をした少女が、誰かを守るように立っている。
「……私?」
シロが呟く。
しかし、光景はすぐに消えた。
男はその様子を見て、苦しそうに顔を歪めた。
「……まだ早い。」
「何?」
柚が振り返る。
男は黒い魔法陣を足元に展開する。
「完全に思い出されては困る。」
「待て!」
柚が飛び出す。
だが、男の姿は黒い光の中へ消えていく。
「くそっ!」
柚は拳を握る。
その場に残されたのは、男が落とした一枚の紙だけだった。
ルークが拾い上げる。
そこには、こう書かれていた。
『魔王は、千年前に世界を救った。』
そして、その下には――
『その力を奪ったのは、当時の王家である。』
誰も、言葉を発することができなかった。




