第六話 まずは登録だ
「面白い新人が来たようじゃの。」
低く響く声に、ギルド内の空気が少しだけ和らいだ。
ギルドマスターのガレスは、床に倒れている大男を見下ろしてため息をつく。
「またお前さんか……。新人を見るたびに絡みおって。」
ガンズは白目をむいたまま動かない。
「運んでやれ。」
「はい!」
近くにいた冒険者たちが慌ててガンズを抱え、奥へ運んでいく。
ガレスは改めて柚と暁へ向き直った。
「儂はギルドマスターのガレスじゃ。」
「まずは名を聞こう。」
柚が一歩前へ出る。
「あたしは藤堂柚。」
続いて暁が口を開く。
「神崎暁。」
ガレスは小さく頷いた。
「珍しい名じゃな。」
その時、アルベルトが前へ出る。
「ガレス殿。」
「この二人には事情があります。」
「詳しくは申し上げられませんが、身元は私が保証いたします。」
ガレスはすぐに頷いた。
「領主殿が保証するなら問題あるまい。」
「誰にでも事情はある。」
「無理に聞く気もない。」
そう言うと受付嬢へ顔を向けた。
「登録を進めてくれ。」
「かしこまりました。」
受付嬢は二枚の用紙を差し出す。
「お名前と年齢をご記入ください。」
柚は紙を受け取り、目を丸くした。
「……読める。」
暁も紙を見つめる。
「読めるな。」
書かれている文字は見たことがない。
それなのに、意味だけは自然と理解できた。
「どうかされましたか?」
受付嬢が不思議そうに尋ねる。
「あっ、なんでもない!」
柚は慌ててごまかし、名前と年齢を書き込む。
暁も書き終え、二人は用紙を返した。
受付嬢は内容を確認すると、小さな水晶玉を机へ置く。
「最後に、こちらへ手を乗せてください。」
柚は水晶を覗き込む。
「これ何?」
「能力を測定する道具です。」
「冒険者登録には必要になります。」
「へぇ。」
柚は軽く右手を乗せた。
その瞬間。
ピキッ。
小さなひびが入る。
受付嬢が首をかしげた。
「……あれ?」
次の瞬間。
バキィィン!!
水晶玉が粉々に砕け散った。
「えっ!? あたし何もしてない!」
柚は慌てて手を離す。
受付嬢は固まり、周囲の冒険者たちも目を見開いた。
「測定器が壊れた……。」
「初めて見たぞ。」
「なんだあの子。」
柚は砕けた水晶と受付嬢を交互に見る。
「これ……弁償?」
暁は首を横に振った。
「多分違う。」
「だといいけど……。」
ガレスは砕けた水晶を拾い上げる。
「測定器が壊れるのは極めて珍しい。」
「桁外れの力を持つ者が触れた時、ごく稀に起こる。」
ギルド内がざわつく。
「桁外れ……?」
「そんな話、本当にあったのか。」
ガレスは暁を見る。
「次はお前さんじゃ。」
受付嬢は慌てて奥から予備の測定器を持ってきた。
「こちらを……。」
暁は静かに頷き、水晶へ手を乗せる。
淡い青い光が水晶を包み込む。
受付嬢がほっと息をついた、その時。
バキィィィン!!
予備の測定器まで粉々に砕け散った。
ギルド内が完全に静まり返る。
ガレスは額に手を当て、大きく息を吐いた。
「……一日で二つとはの。」
柚は思わず笑う。
「暁も壊した。」
「柚も。」
「おそろい。」
「そんなところで揃わなくていい。」
受付嬢は青ざめた顔でガレスを見る。
「ギルドマスター……予備が、もうございません……。」
数秒の沈黙が流れる。
やがてガレスは豪快に笑い出した。
「はっはっはっ!」
ギルド中に笑い声が響く。
「面白い!」
「二人続けて測定器を壊す新人など、儂も初めて見たわ!」
冒険者たちは笑うこともできず、ただ二人を見つめていた。
――この二人は、間違いなく普通ではない。
そんな周囲の空気とは対照的に、柚は暁へ小声で話しかける。
「また目立っちゃった。」
「最初からそうなると思ってた。」
暁の言葉に、柚は照れくさそうに笑った。




