第五話 売られた喧嘩は買う
翌朝。
柚と暁はアルベルトに案内され、城下町へやって来た。
「すご……。」
石畳の道がまっすぐ続き、通りには露店がずらりと並んでいる。
見たことのない食べ物。
色鮮やかな果物。
剣や鎧を身につけた人々に、ローブ姿の者まで歩いていた。
「あたし、本当に異世界に来たんだ。」
「昨日から来てる。」
「昨日は森しか見てなかったし。」
柚はきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。
その後ろを暁がゆっくりついていく。
すると、町の人々が次々と足を止めた。
「見ろ。」
「あの服は何だ?」
「見たことがないな。」
「どこか遠い国の人か?」
興味津々な視線が集まる。
柚は少しだけ困ったように笑った。
「また見られてる。」
「昨日も見られてた。」
「そんなに変?」
「この世界じゃ珍しい。」
アルベルトは苦笑する。
「お二人のような装いは、この国では見たことがありませんから。」
「やっぱり目立つんだ。」
そんな話をしているうちに、一際大きな建物の前へ着いた。
剣と盾の紋章が掲げられている。
「こちらが冒険者ギルドです。」
アルベルトが扉を開けた。
ギィィ……。
中は朝から多くの冒険者で賑わっていた。
依頼書を眺める者。
酒を飲む者。
武器の手入れをする者。
しかし、柚たちが入った瞬間。
ギルド内が静まり返る。
「誰だ?」
「あの格好……。」
「武器も持ってないぞ。」
「あんな子どもが冒険者?」
ひそひそと声が飛び交う。
柚は暁へ小声で話しかけた。
「やっぱり目立つ。」
「仕方ない。」
アルベルトは受付へ向かった。
「登録をお願いしたいのですが、ギルドマスターはいらっしゃいますか?」
「はい。少々お待ちください。」
受付嬢が奥へ下がろうとした、その時だった。
ガタンッ。
一人の大男が立ち上がる。
背中には大剣。
筋骨隆々の身体には無数の傷跡があった。
「おい。」
柚が振り向く。
「嬢ちゃん。」
「なに?」
男は鼻で笑う。
「ここは遊びに来る場所じゃねぇ。」
周囲からクスクスと笑い声が漏れる。
「武器も持たずに冒険者か?」
「帰ってママにでも泣きつきな。」
柚は暁を見る。
「ねぇ。」
「ん?」
「これって喧嘩売られてる?」
「売られてる。」
「そっか。」
柚は男へ向き直り、にっと笑った。
「あたし、売られた喧嘩は買う主義なんだ。」
男は顔をしかめる。
「ガキが調子に――」
最後まで言わせなかった。
ドンッ!!
柚が一歩踏み込む。
次の瞬間には男の懐へ入り込み、その腹へ拳を叩き込んでいた。
「がはっ!」
ドゴォォォン!!
大男の身体が吹き飛び、机を巻き込みながら床を転がる。
ギルド中が静まり返った。
「……。」
「一撃?」
「見えなかったぞ……。」
「嘘だろ。」
誰もが目を見開く。
柚は軽く拳を振った。
「思ったより弱かった。」
暁は倒れた男を見て、小さく息をつく。
「だからやめとけばよかったのに。」
その時。
ギィ……
奥の扉がゆっくりと開いた。
「朝から騒がしいと思えば……。」
低く響く声とともに、一人の老人が姿を現す。
鍛え上げられた大柄な身体。
鋭い眼光。
その姿を見た冒険者たちは一斉に背筋を伸ばした。
「ギルドマスター!」
老人は倒れた冒険者を一瞥すると、柚へ視線を向ける。
そして、口元をゆっくりと緩めた。
「面白い新人が来たようじゃの。」




