第四話 異世界にもギルドがあるらしい
「お待たせいたしました。」
メイド長のエマに案内され、柚と暁は食堂へ足を踏み入れた。
長いテーブルいっぱいに料理が並んでいる。
焼きたてのパン。
湯気の立つ肉料理。
香ばしく焼かれた魚。
彩り豊かな野菜に、見たことのない果物まで並んでいた。
「うわぁ……。」
柚は思わず足を止める。
「あたし、一生分食べられそう。」
「食べきれない。」
暁が即答した。
「いや、頑張れば……。」
「無理。」
アルベルトは思わず笑みをこぼす。
「どうぞ、お好きなだけ召し上がってください。」
「いただきます!」
柚は勢いよく席へ座った。
テーブルに置かれた食器を見渡し、首をかしげる。
「……あれ?」
「どうした?」
「箸がない。」
暁も食器を見る。
「本当だ。」
リリアが不思議そうに尋ねた。
「はし、とは何ですか?」
「あたしたちの世界の食器だよ。」
柚は指で二本並べる仕草をする。
「こんな棒を二本使って食べるの。」
リリアは目を丸くした。
「棒でですか?」
「そんな食べ方があるんですね。」
アルベルトも興味深そうに頷く。
「私も初めて耳にしました。」
「今度作ってみようかな。」
柚はそう言いながらナイフとフォークを手に取る。
少しぎこちなく肉を切り、一口食べた。
「……おいしい!」
思わず笑顔がこぼれる。
「これ毎日食べたい!」
アルベルトは優しく微笑んだ。
「お気に召していただけて何よりです。」
◇ ◇ ◇
食後、温かいお茶が運ばれてきた。
アルベルトはカップを置き、二人を見つめる。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「お二人は、どちらから来られたのですか?」
柚と暁は顔を見合わせた。
隠し続けても仕方がない。
柚が小さく息を吸う。
「信じてもらえないかもしれないけど……。」
アルベルトは静かに頷いた。
「構いません。」
「実は、あたしたち……別の世界から来たの。」
食堂が静まり返る。
リリアも目を丸くした。
「別の世界……?」
「学校から帰る途中、急に地面に大きな穴が開いて。」
柚は暁を見る。
暁が続きを話した。
「二人で落ちた。」
「気付いたら、あの森にいた。」
「帰る方法も分からない。」
「だから行く場所もない。」
アルベルトは腕を組み、しばらく考え込んだ。
普通なら信じられない話だ。
しかし、自分の命を救った二人は、高ランク魔獣を素手で倒している。
普通では説明できないことを、この目で見てきた。
やがてアルベルトは静かに頷いた。
「分かりました。」
「すぐに理解できる話ではありません。」
「ですが、お二人が嘘をついているようには思えません。」
柚は少しだけ肩の力を抜いた。
アルベルトは穏やかに続ける。
「帰る方法は、私も調べてみます。」
「それまでは、この城をご自分の家だと思ってお過ごしください。」
「本当に?」
「もちろんです。」
「お二人は私たち親子の命の恩人ですから。」
「あ、ありがとう。」
柚は照れくさそうに頭を下げた。
暁も静かに一礼する。
「ありがとうございます。」
アルベルトは優しく微笑んだ。
◇ ◇ ◇
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ました柚は、大きく伸びをした。
「よく寝たぁ。」
カーテンを開けると、朝日に照らされた城下町が目に入る。
「すご……。」
コンコン。
扉がノックされた。
「失礼いたします。」
入ってきたのはアルベルトだった。
「おはようございます。」
「昨夜はよく眠れましたか?」
「うん!」
「ベッド、最高だった!」
アルベルトは笑みを浮かべる。
「それは何よりです。」
そして表情を少しだけ引き締めた。
「本日は、お二人をご案内したい場所があります。」
「どこ?」
「冒険者ギルドです。」
柚と暁は顔を見合わせた。
「冒険者ギルド?」
アルベルトは頷く。
「魔獣討伐や護衛、さまざまな依頼を請け負う者たちが所属する組織です。」
「お二人ほどの実力があれば、歓迎されるでしょう。」
「それに、冒険者登録をすれば身分証明にもなります。」
柚は笑みを浮かべた。
「なんか面白そう!」
暁も静かに頷く。
「行こう。」
アルベルトは少し苦笑した。
「ただ一つだけ心配があります。」
「?」
「あまり目立たないとよいのですが……。」
柚は首をかしげる。
「なんで?」
その隣で暁が小さくため息をついた。
「……多分、無理。」




