第五十九話 黒い紋章の本
「……何これ。」
柚が落ちた本を拾い上げる。
表紙には、魔獣についていたものと同じ黒い紋章が描かれていた。
ルークの表情が変わる。
「触らないでください。」
「え?」
「その紋章は、先ほどの魔獣にあったものと同じです。」
柚はすぐに本を机の上へ置いた。
暁が周囲を見回す。
「誰かが落としたのか?」
「分かりません。」
ルークが慎重に本を調べる。
「ですが、この本……かなり古い。」
「王立書庫にある以上、誰かがここへ持ち込んだはずです。」
シロが本をじっと見つめている。
「……この本。」
「何か感じる?」
柚が尋ねる。
シロは首を横に振る。
「怖くはない。」
「でも、知らないはずなのに……気になる。」
シロがそっと表紙へ手を伸ばす。
その瞬間。
パァッ――。
黒い紋章が淡く光った。
「シロ!」
柚が手を伸ばす。
だが、シロは動かなかった。
「大丈夫。」
「この本……私を知ってる。」
ルークが息をのむ。
「本が……知っている?」
シロが表紙を開く。
最初のページには、古い文字が並んでいた。
ルークが読み上げる。
「『魔王の力は、世界を滅ぼす力にあらず』……。」
柚が眉をひそめる。
「また魔王は悪者じゃないって書いてある。」
さらにページをめくる。
そこには、魔王についての記録が続いていた。
『魔王は世界を守るために生まれた存在。』
『しかし、その力を恐れた人間たちは、魔王を封じることを選んだ。』
『そして魔王の力を利用しようとする者が現れた。』
暁が呟く。
「利用しようとする者……。」
ルークはページをめくる。
だが、そこから先は文字が黒く塗り潰されていた。
「ここも……読めない。」
柚が首をかしげる。
「なんで大事なところばっかり隠されてるんだよ。」
その時。
シロがページの端を指差した。
「待って。」
「ここ……文字がある。」
よく見ると、黒く塗り潰された部分の下に、わずかに文字が残っている。
ルークが目を凝らす。
「……『王家の――』」
そこまで読んだ瞬間。
バタン!!
書庫の扉が勢いよく開いた。
「誰だ!」
暁が立ち上がる。
入口には、一人の老人が立っていた。
王立書庫の管理を任されている人物だった。
老人は柚たちを見るなり、顔色を変えた。
「その本を……どこで見つけた?」
ルークが答える。
「先ほど、棚から落ちてきました。」
老人は震える声で言った。
「……その本は。」
「百年以上、誰も触れてはいけないとされていた本です。」
柚は本を見る。
「なんで?」
老人はしばらく黙った。
そして、小さな声で答えた。
「その本には……。」
「王家が隠してきた、魔王に関する真実が記されているからです。」




