第五十六話 目覚めかけた力
シロの瞳が赤く光った。
「……シロ?」
柚が振り返る。
シロは胸元を押さえ、苦しそうに息をしていた。
「分からない……。」
「身体が勝手に……。」
黒い魔力がシロの周囲に集まっていく。
男はその光景を見て笑った。
「そうだ。」
「それでいい。」
「もっと思い出せ。」
シロは首を振る。
「嫌……。」
「私は……そんなことしたくない。」
「まだ分からないのか。」
男が手を伸ばす。
「その力は、お前自身のものだ。」
「私が使えと言わなくても、いずれ目覚める。」
黒い魔力がさらに膨れ上がる。
柚はシロの前へ立った。
「シロ。」
「こっち見て。」
シロがゆっくり顔を上げる。
「……柚。」
「大丈夫。」
「力がどうとか、魔王がどうとか。」
「今は考えなくていい。」
柚はまっすぐシロを見る。
「シロはシロでしょ。」
シロの瞳が揺れる。
「……私が?」
「うん。」
「記憶がなくても、今まで一緒にいた時間は本物だから。」
暁も隣に立つ。
「無理に思い出す必要はない。」
「自分で決めればいい。」
シロは二人を見つめる。
そして――
黒い魔力が少しずつ弱まっていく。
「……ありがとう。」
男の表情が険しくなる。
「くだらない。」
「そんなものが魔王の力を止められると思うか。」
男が腕を振る。
巨大な黒い腕が柚たちへ迫る。
「だったら。」
柚が拳を握る。
「私たちが止める!」
ドゴォォン!!
柚の拳が黒い腕を正面から打ち砕いた。
同時に暁が駆け出す。
「今だ!」
暁の蹴りが男へ迫る。
男は腕で受け止めるが、大きく後ろへ吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
男が初めて苦しそうな声を漏らす。
レオンが驚く。
「効いている!」
ルークも叫ぶ。
「今なら結晶を封じ直せます!」
「どうやって!?」
柚が振り返る。
「シロに触れてください!」
「彼女自身の意思で力を抑えれば、封印を戻せるはずです!」
シロは不安そうに自分の手を見る。
「私に……できる?」
柚が笑う。
「できるよ。」
暁も頷く。
「俺たちがいる。」
シロは二人の手を握った。
「……うん。」
その瞬間。
シロの身体から黒い魔力が溢れ出す。
しかし今度は暴走していない。
シロ自身の意思で、ゆっくりと魔力を結晶へ戻していく。
「お願い……。」
「戻って。」
黒い結晶が強く輝く。
男が叫ぶ。
「やめろ!」
「それ以上は――!」
パァァァン!!
強烈な光が地下室を包み込んだ。




