第五十一話 初めての強敵
ドォン!!
轟音が森に響いた。
黒衣の男の拳と、柚の拳が正面からぶつかり合う。
衝撃で周囲の木々が大きく揺れた。
「……!」
柚は数歩後ろへ下がる。
異世界へ来てから、相手の攻撃で押し返されたのは初めてだった。
「強い……。」
柚は思わず笑みを浮かべる。
「やっと、本気で戦えそう。」
黒衣の男は柚を見つめる。
「この一撃を受け止めるか。」
「異世界の者とは思えんな。」
その瞬間。
暁が男の背後へ回り込む。
「終わりだ。」
鋭い回し蹴りが男の頭を狙う。
しかし。
男は振り向くことなく、その蹴りを片手で受け止めた。
「何っ!」
レオンが目を見開く。
男はそのまま暁の足を掴むと、大きく振り回した。
「暁!」
柚が叫ぶ。
暁は空中で身体をひねり、地面へ着地する。
「大丈夫。」
短く答え、再び構えた。
男は二人を交互に見つめる。
「なるほど。」
「お前たちは、他の人間とは違う。」
「少しは楽しめそうだ。」
柚は口角を上げた。
「私も同じこと思ってた。」
次の瞬間。
柚と暁が同時に飛び出す。
右から柚。
左から暁。
息の合った連携攻撃。
だが、男は紙一重でかわし続ける。
「速い!」
レオンが思わず声を漏らす。
三人の動きは速すぎて、騎士たちの目では追えなかった。
ドゴン!
バキィッ!
衝撃音だけが森に響く。
互角だった。
その時。
男が小さく笑う。
「時間切れか。」
そう呟くと、懐から黒い結晶の欠片を取り出した。
パキッ。
欠片を握り潰す。
すると足元に黒い魔法陣が広がった。
「逃がすか!」
レオンが駆け出す。
しかし、その前に男の姿が揺らぐ。
「次は、必ず魔王を連れて帰る。」
男はシロを見つめる。
「その時までに。」
「思い出しておけ。」
黒い光が男を包み込む。
次の瞬間。
男の姿は跡形もなく消えていた。
森に静寂が戻る。
レオンは悔しそうに剣を下ろす。
「逃げられた……。」
柚は拳を握ったまま、男が消えた場所を見つめていた。
「逃げたってことは。」
「倒せない相手じゃない。」
暁は静かに頷く。
「ああ。」
「次は捕まえる。」
その時。
シロがふらつき、その場に膝をついた。
「シロ!」
柚が駆け寄る。
シロは苦しそうに胸を押さえている。
「頭の中で……。」
「誰かの声がする……。」
ルークの表情が険しくなる。
「黒衣の男が去っても、影響が残っているのか……。」
シロは震える手で頭を押さえ、小さく呟いた。
「『鍵は、王都にある』って……。」
その言葉に、その場の全員が息をのんだ。




