第五十話 黒衣の男
王都の北門を抜けると、一行は街道を駆けていた。
「シロ。」
柚が声をかける。
「まだ分かる?」
シロは目を閉じる。
「うん。」
「この先。」
「少しずつ近づいてる。」
その言葉を聞き、レオンは騎士たちへ指示を出す。
「警戒を怠るな。」
「相手の正体は分かっていない。」
「はっ!」
しばらく進むと、街道から外れた森の入り口が見えてきた。
シロが足を止める。
「ここ。」
「この中。」
柚と暁は顔を見合わせた。
「行こう。」
「うん。」
森の中へ足を踏み入れる。
辺りは異様なほど静かだった。
鳥の鳴き声も聞こえない。
風すら止まっているように感じる。
やがて、一行は小さな開けた場所へたどり着いた。
そこには、一人の男が立っていた。
全身を黒いローブで包み、フードを深くかぶっている。
男はゆっくりと振り返った。
「来たか。」
低い声が響く。
レオンが剣を抜く。
「貴様が今回の襲撃を企てたのか。」
男は薄く笑う。
「そう焦るな。」
「今日は戦いに来たわけではない。」
その視線がシロへ向く。
「迎えに来た。」
シロは柚の後ろへ隠れた。
「嫌……。」
男は小さく息をつく。
「何も覚えていないのか。」
「なら仕方ない。」
「お前は魔王。」
「この世界を支配する資格を持つ存在だ。」
シロは首を横に振る。
「違う。」
「私はそんなことしない。」
男の声が少し低くなる。
「思い出せ。」
「お前の力は、人間を滅ぼすためにある。」
「違う!」
シロが叫ぶ。
その瞬間。
ドクン――。
シロの身体から黒い魔力が漏れ出した。
「シロ!」
柚がすぐに肩を支える。
「大丈夫!」
シロは苦しそうに息を乱す。
「頭が……。」
「痛い……。」
男はその様子を見て満足そうに笑った。
「そうだ。」
「少しずつ目覚めている。」
「やめろ!」
柚が怒鳴る。
男は初めて柚を見る。
「異世界の娘。」
「お前は邪魔だ。」
次の瞬間。
男の姿が消えた。
「っ!」
気づいた時には、男は柚の目の前に立っていた。
そして。
柚へ向かって、黒い魔力をまとった拳を振り下ろした。




