第四十八話 守る理由
その瞬間。
「危ない!」
柚が地面を蹴った。
魔獣の爪が少年へ届くより早く、その間に割り込む。
ガキィィン!
鋭い爪が柚の腕へ振り下ろされる。
しかし――
爪は柚の腕を傷つけることなく、弾かれた。
「……?」
魔獣が動きを止める。
柚は自分の腕を見る。
痛みもない。
傷もない。
「やっぱり……。」
異世界へ来てから、何度も感じていた。
この世界へ来た時、柚たちは不思議な力を得ていた。
魔力。
身体能力の強化。
そして、魔獣と戦うほどに上がっていく力。
まだ詳しいことは分からない。
けれど、自分の身体が元の世界にいた時とは違うことだけは分かっていた。
「私、思ってるより頑丈みたい。」
柚は小さく笑う。
そして、少年を背中に隠した。
「大丈夫?」
「う、うん……。」
少年は震えながら頷く。
柚は魔獣へ視線を戻した。
「子どもを狙うのは嫌い。」
次の瞬間。
ドンッ!
拳が魔獣の腹へ叩き込まれる。
巨大な魔獣は地面を転がり、そのまま動かなくなった。
周囲から歓声が上がる。
「倒した……!」
「一撃で……!」
しかし、柚は周囲を見回す。
まだ魔獣は残っている。
「暁。」
「ああ。」
二人は背中合わせになる。
昔から何度も一緒に戦ってきた、自然な動きだった。
「右。」
「分かった。」
「左。」
「任せる。」
次々と襲いかかる魔獣。
だが、二人の前では相手にならない。
柚の拳。
暁の蹴り。
一体、また一体と魔獣が倒れていく。
やがて。
最後の一体が地面へ倒れた。
静寂。
そして――
「うおおおお!!」
王都中から歓声が響いた。
兵士たちは信じられないものを見るように二人を見る。
「たった二人で……。」
「魔獣の群れを……。」
レオンも遅れて到着し、その光景を見て目を見開いた。
「また……先を越されましたか。」
柚は振り返る。
「レオン。」
「無事だった?」
「それはこちらの台詞です。」
レオンは苦笑する。
「本当に、あなたたちは規格外ですね。」
その時。
暁が倒れた魔獣を見つめる。
「……。」
「どうしたの?」
柚が尋ねる。
暁は眉をひそめた。
「こいつら。」
「普通の魔獣じゃない。」
ルークも近づき、魔獣の身体を調べる。
そして表情を変えた。
「これは……。」
魔獣の首元に、小さな黒い紋様が浮かんでいた。
「黒い結晶と同じ魔力の痕跡です。」
レオンの顔が険しくなる。
「つまり……。」
ルークは頷く。
「この襲撃は偶然ではありません。」
「誰かが、魔獣を操って王都を襲わせたのです。」
その言葉に、全員が息をのむ。
そして。
遠く離れた場所で。
誰かが静かに笑っていた。
「順調だ。」
「魔王の力が、少しずつ目覚めている。」
「もうすぐだ。」
「もうすぐ、世界は変わる。」




