第三十二話 様子がおかしい
ホーンラビットは一直線に柚へ突っ込んでくる。
「速い!」
レオンが声を上げる。
だが、柚は落ち着いていた。
「このくらいなら。」
身体を半歩ずらす。
角が制服のすぐ横をかすめた。
「はい。」
ドゴッ!!
すれ違いざまに拳を振り抜く。
ホーンラビットは地面を転がり、そのまま動かなくなった。
「終わった。」
柚は軽く手を払う。
しかし、誰も安心した様子を見せない。
ルークは倒れたホーンラビットへ近づき、しゃがみ込んだ。
「やはり……。」
耳や角を観察すると、小さく眉をひそめる。
「どうした?」
暁が尋ねる。
「見てください。」
ルークが指差したのは、ホーンラビットの赤く染まった瞳だった。
「本来のホーンラビットの目は黒いのです。」
「興奮しても、ここまで赤くなることはありません。」
レオンも近づく。
「確かに……。」
「まるで理性を失っていたような動きでした。」
柚は不思議そうに首をかしげる。
「病気?」
「その可能性もあります。」
ルークは静かに立ち上がった。
「ですが、私は別の原因を疑っています。」
「魔力です。」
「魔力?」
柚と暁が同時に聞き返す。
「何者かの強い魔力を浴び続けると、魔獣が凶暴化するという記録があります。」
「確かな事例はほとんど残っていませんが……。」
レオンは森の奥へ視線を向けた。
「ということは。」
「原因は、この森のさらに奥にあるかもしれません。」
その時だった。
ガサッ。
ガサガサッ。
一つではない。
あちこちの茂みが揺れ始める。
騎士たちが一斉に武器を構えた。
「囲まれています!」
レオンが周囲を見回す。
次の瞬間。
茂みの中から次々とホーンラビットが姿を現した。
一匹。
二匹。
五匹。
十匹。
「こんな数……!」
レオンの表情が変わる。
「ホーンラビットは群れを作る魔獣ではないはずです!」
それでも、魔獣たちは一斉に角を向ける。
赤い瞳だけが、不気味に光っていた。
柚は拳を握る。
「今度はいっぱいだね。」
暁は静かに前へ出る。
「ああ。」
「まとめて来る。」




