第三十話 魔王
「ただ魔獣が増えているだけではないかもしれません。」
ルークの言葉に、その場が静まり返る。
国王がゆっくりと口を開く。
「……どういう意味だ。」
ルークは少し間を置いて答えた。
「私が各地を旅して調べた限り、魔獣たちは縄張りを広げているのではありません。」
「何かから逃げるように移動しています。」
「逃げる?」
レオンが眉をひそめる。
ルークは頷いた。
「はい。」
「弱い魔獣だけではありません。」
「ワイバーンほどの強力な魔獣まで、人里へ現れています。」
「普通では考えられません。」
国王は腕を組む。
「つまり、その魔獣たちを追い立てている存在がいる、と。」
「その可能性があります。」
ルークは真剣な表情で答えた。
「古い文献には、このような記述があります。」
「強大な魔力が目覚める時、森の魔獣は住処を捨てる、と。」
部屋の空気が一気に重くなる。
「まさか……。」
レオンが小さく呟く。
国王も険しい表情になった。
「魔王か。」
その言葉に、柚が首をかしげる。
「魔王?」
「いるの?」
国王は静かに頷いた。
「伝承だけの存在と思われていた。」
「だが、もし本当に目覚めようとしているなら、この国だけの問題では済まない。」
柚は暁を見る。
「魔王って強いのかな。」
「分からない。」
暁は短く答えた。
「でも。」
「会ってみれば分かる。」
その言葉に、レオンは思わず苦笑する。
「普通は、会いたいとは思いません。」
柚は不思議そうな顔をした。
「そう?」
「悪いことするなら止めないと。」
国王は二人を見つめ、静かに頷いた。
「まだ魔王と決まったわけではない。」
「まずは事実を確かめることが先だ。」
ルークも同意する。
「はい。」
「原因を調べれば、魔獣が暴れている理由も分かるはずです。」
国王はレオンへ視線を向けた。
「レオン。」
「しばらく二人の案内役を務めよ。」
「はっ!」
「必ず、お守りいたします。」
その返事を聞いた柚は笑う。
「大丈夫だよ。」
「私たち、そんなに弱くないし。」
レオンは苦笑した。
「それは、この城で一番よく分かっております。」
その場にいた騎士たちも、小さく笑みを浮かべる。
ワイバーンを素手で倒した二人を守る。
それは、誰が聞いても少し不思議な任務だった。
こうして柚たちは、魔獣異変の真相を探るため、新たな旅へ出ることになった。




