第二十話 討伐完了
土煙が森一帯を包み込む。
誰も動けなかった。
「……。」
「倒した……のか?」
冒険者の一人が震える声で呟く。
やがて土煙が晴れていく。
そこには、大きなクレーター。
その中心で、ワイバーンがぐったりと横たわっていた。
翼はだらりと垂れ、微動だにしない。
ガレスが慎重に近づく。
しばらく様子を見つめると、大きく息を吐いた。
「……討伐完了じゃ。」
その一言で、張り詰めていた空気が一気に緩む。
「やったー!」
「助かった!」
「生きて帰れる!」
冒険者たちから歓声が上がった。
アルベルトも胸をなで下ろす。
「まさか本当に倒してしまうとは……。」
柚は首をかしげる。
「そんなに強かったの?」
その場にいた全員が心の中で同じことを思う。
――お前が強すぎるんだ。
ガレスは苦笑しながら答えた。
「ワイバーンはBランクやAランクの冒険者が何人も集まってようやく討伐できる相手じゃ。」
「一人で正面から倒す者など聞いたことがない。」
「へぇ。」
柚はワイバーンを見つめる。
「でも、飛んでる方が厄介だった。」
「地面に落ちたら普通だったよ。」
その言葉に、冒険者たちは思わず顔を見合わせた。
「普通……。」
「感覚がおかしい。」
暁は静かに柚へ視線を向ける。
「怪我は?」
「ない!」
柚はその場で軽く跳ねてみせる。
「暁のおかげで届いたし。」
「ならよかった。」
短いやり取りだったが、二人にはそれで十分だった。
ガレスはワイバーンの亡骸を見下ろす。
「この素材だけでも相当な価値になる。」
「報酬も期待してよいぞ。」
「ほんと?」
柚の目が輝く。
「またいっぱいご飯食べられる!」
「そこか。」
暁が小さく笑う。
「そこ。」
その様子を見たアルベルトも思わず笑みを浮かべた。
「お二人は、本当に変わりませんね。」
「よし!」
ガレスが声を張る。
「素材を回収する!」
「負傷者の確認も忘れるな!」
「帰還するぞ!」
「「「おおっ!」」」
討伐隊は町への帰路につく。
その途中。
一人の冒険者が隣の仲間へ小声で話しかけた。
「なぁ。」
「なんだ?」
「俺、今日ワイバーンより怖いものを見た気がする。」
仲間は苦笑する。
「奇遇だな。」
「俺もだ。」
二人の視線の先では、柚と暁が楽しそうに歩いていた。
「次は何食べようかな。」
「肉。」
「また?」
「肉。」
「じゃあ今日は肉ね。」
ワイバーンを素手で倒したとは思えないほど、いつも通りの二人だった。




