第十九話 ぶん投げる
「俺に考えがある。」
暁の一言に、柚が首をかしげる。
「どうするの?」
暁は空を旋回するワイバーンを見上げた。
「柚。」
「ん?」
「俺がお前を投げる。」
「……は?」
一瞬、周囲が静まり返る。
近くで聞いていた冒険者が思わず聞き返した。
「投げる?」
「人を?」
暁は真顔のまま頷く。
「届かないなら、届く高さまで飛ばせばいい。」
「いやいやいや!」
冒険者の一人が慌てて首を振る。
「人間をそんな高さまで投げられるわけが──」
「できる。」
暁は即答した。
その真剣な表情に、誰も言葉を返せなくなる。
柚は少し考えた後、笑顔になった。
「面白そう!」
「やってみよ!」
アルベルトは慌てて止める。
「お、お待ちください!」
「さすがに危険すぎます!」
ガレスも額に手を当てた。
「普通なら止めるところなんじゃが……。」
二人を見て苦笑する。
「普通じゃないんじゃったな。」
その時。
「ギャオオオオッ!!」
ワイバーンが再び急降下を始めた。
「来る!」
暁は静かに腰を落とす。
「柚。」
「任せた!」
柚は何の迷いもなく走り出した。
暁はタイミングを見計らう。
距離が縮まる。
五十メートル。
三十メートル。
二十メートル。
「今だ。」
柚が跳ぶ。
同時に、暁は柚の足を両手で受け止める。
「行け。」
ドォン!!
全身の力を込めて、柚を真上へ投げ飛ばした。
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
見守っていた冒険者たちが叫ぶ。
柚の身体は一直線に空へ舞い上がる。
「すごーい!」
本人だけは楽しそうだった。
あっという間にワイバーンと同じ高さまで到達する。
「ギャッ!?」
突然目の前に現れた人間に、ワイバーンが動きを止めた。
「捕まえた。」
柚は翼をがしっと掴む。
「ギャアアアアッ!!」
ワイバーンは激しく暴れ始める。
だが、柚は離さない。
「暴れるなって。」
そのまま右拳を握り締める。
「一発!」
ドゴォォォン!!
拳がワイバーンの顔面へ炸裂した。
空気が震えるほどの衝撃。
ワイバーンの巨体が大きく吹き飛び、きりもみ回転しながら地面へ落ちていく。
「落ちるよー!」
殴り飛ばした反動で、柚もそのまま空中へ放り出された。
地上では冒険者たちが青ざめる。
「まずい!」
「今度はあの子が!」
しかし。
暁は落ちてくる柚を見上げると、一歩前へ出た。
そして。
「おかえり。」
落下してきた柚を、両腕で受け止める。
「ただいま!」
柚は満面の笑みだった。
まるで遊園地のアトラクションを楽しんできたかのような顔で笑う。
その一方で。
ドゴォォォン!!
殴り飛ばされたワイバーンが大地へ激突し、大きな土煙を巻き上げた。




