第十八話 届かない拳
「来るぞ!」
ガレスの声が森に響く。
冒険者たちは一斉に武器を構えた。
騎士たちも盾を前に出し、防御陣形を作る。
ワイバーンは一直線に突っ込んでくる。
「ギャオオオオッ!!」
「放て!」
ガレスの号令で、弓兵たちが一斉に矢を放つ。
無数の矢が空を埋め尽くした。
しかし。
ガキン!
ガキン!
矢は硬い鱗に弾かれ、ほとんど傷一つ付けられない。
「効いてない!」
「鱗が硬すぎる!」
次の瞬間。
ワイバーンが大きく息を吸い込んだ。
アルベルトが叫ぶ。
「ブレスです! 全員、伏せてください!」
ゴォォォォッ!!
灼熱の炎が一直線に地面を焼き払う。
爆風と熱風が森を駆け抜け、木々が一瞬で燃え上がった。
「熱っ!」
柚は腕で顔をかばいながら後ろへ跳ぶ。
暁も素早く距離を取った。
炎が収まると、地面には黒く焼けた跡が残っていた。
「危なかった。」
柚は焼け焦げた地面を見つめる。
「あれ当たったら痛そう。」
「痛そうじゃ済まない。」
暁が静かに返す。
その間にも、ワイバーンは再び大空へ舞い上がる。
「また飛んだ。」
柚は空を見上げた。
「届かない。」
暁も目で追う。
「今は無理。」
ガレスが歯を食いしばる。
「地上へ降ろせ!」
「飛んでいる限り勝ち目はない!」
冒険者たちは次々と魔法や矢を放つ。
だが、ワイバーンは軽々と空を旋回しながら攻撃を避けていく。
「速すぎる!」
「当たらねぇ!」
柚は少し不満そうに頬を膨らませた。
「全然殴れない。」
「相性悪い。」
暁も珍しく眉をひそめる。
その時だった。
ワイバーンが再び急降下を始める。
狙われたのは、一人の若い冒険者だった。
「しまっ……!」
恐怖で足が止まる。
誰も間に合わない。
「危ない!」
柚は地面を強く蹴った。
ドンッ!!
土が爆ぜる。
一瞬で冒険者の前へ飛び込み、その身体を横へ突き飛ばした。
「えっ!」
次の瞬間。
ワイバーンの鋭い爪が、柚のすぐ目の前を通り過ぎる。
風圧だけで木々が大きく揺れた。
「惜しかった。」
柚は笑う。
ワイバーンは旋回しながら再び上空へ戻っていく。
それを見上げた柚は、小さくため息をついた。
「やっぱり飛んでると殴れないな。」
その隣で、暁が静かに空を見つめていた。
「……いや。」
「一回だけなら、届くかもしれない。」
柚は振り返る。
「ほんと?」
暁はゆっくりと頷いた。
「俺に考えがある。」




