第十三話 ゴブリンキング
ドシン。
ドシン。
重い足音とともに、巨大な影が森の奥から姿を現した。
「でか……。」
柚が思わず声を漏らす。
現れたのは、普通のゴブリンとは比べものにならないほど大きな魔物だった。
身長は三メートル近い。
筋骨隆々の身体。
全身を覆う黒緑色の皮膚。
手には、人間ほどの大きさがある棍棒を握っている。
「ゴブリンキング……。」
アルベルトの顔から血の気が引いた。
「まさか、この森にいたとは……。」
柚は首をかしげる。
「強いの?」
アルベルトは真剣な表情で頷く。
「通常のゴブリンとは別格です。」
「一体で町一つを危険にさらすこともある魔物です。」
「へぇ。」
柚は拳を握る。
「やっと強そう。」
「柚。」
暁が静かに声をかける。
「気を付けて。」
「うん。」
ゴブリンキングが棍棒を肩に担ぎ、大きく吠えた。
「グォォォォォッ!」
その咆哮だけで木々が大きく揺れる。
次の瞬間。
ドンッ!!
地面を踏み砕きながら、一気に柚へ突進してきた。
「速い。」
柚は笑みを浮かべる。
ギリギリまで引きつける。
棍棒が振り下ろされる寸前。
ひらり、と身体をひねってかわした。
ズドォォン!!
棍棒が地面へめり込み、大きな土煙が舞う。
「お返し。」
柚は右拳を振り抜く。
ドゴンッ!!
拳はゴブリンキングの脇腹へ突き刺さった。
しかし。
「……あれ?」
ゴブリンキングは数歩よろけただけだった。
初めて、まともに耐えた相手。
柚の口元が自然と緩む。
「いいね。」
ゴブリンキングは怒りの咆哮を上げ、再び襲いかかる。
左右から連続で棍棒を振るう。
柚はかわし続ける。
「速いけど。」
一撃。
二撃。
三撃。
紙一重で避けながら、タイミングを見極める。
「隙だらけ。」
柚は一気に懐へ飛び込んだ。
「終わり。」
ドゴォォォン!!
渾身の拳がゴブリンキングの顎を打ち抜く。
巨体が宙へ浮き、そのまま後方へ吹き飛んだ。
何本もの木をなぎ倒しながら転がっていく。
やがて大きな音を立てて止まり、動かなくなった。
森は静寂に包まれる。
柚は軽く息を吐いた。
「さっきのよりは強かった。」
暁が歩み寄る。
「楽しそうだった。」
「うん。」
柚は笑顔で頷いた。
「ちょっとだけ。」
アルベルトは言葉を失っていた。
ゴブリンキング。
熟練の冒険者でも討伐隊を組んで挑む相手。
それを、一人で。
しかも素手で倒してしまった。
「信じられない……。」
その時だった。
突然、柚たちの足元が淡く光り始める。
「え?」
柚が地面を見る。
光は円を描くように広がり、二人を包み込んでいく。
暁は静かに周囲を見渡した。
「これ……。」
アルベルトも目を見開く。
「まさか、スキルの祝福……?」
眩い光がさらに強くなり、柚と暁の姿を包み込んだ。




