赫鞭『リンダー・ガヤヌ』
上空に砂嵐が巻き起こる特異な状況下で、男は思考を落とす。
———小国密集地帯の土地は、やはり私にとって不利な環境だな。
男の名は〝リンダー・ガヤヌ〟周囲の者は彼のことを『赫鞭』と呼んでいた。
男は全身を黒い六角形のプロテクトがところどころに点在する〝スーツ〟と呼ばれる衣服で全身を身に纏っていた。
この〝スーツ〟はリンダー・ガヤヌ専用にカスタマイズされたもので、見た目とは裏腹に防御性能は皆無だが、代わりに彼自身の能力である〝光の照射と反射〟を用いれば風景に擬態する事が可能だ。
リンダー・ガヤヌは、戦闘地帯となった地点から100メートル以上離れている廃墟群に身を潜めていた。
もし奴———シェイン・テリーズが接近してこようものなら〝空の目〟を使い、奴から100メートル離れた地点まで距離を取り、再び立て直す。
奴の接近ルートがひらけた土地であった場合、そのまま仕留め切るのも、一つの手だ。
砂嵐が舞い上がり視界が晴れた今であれば、それも選択肢に入ってくる。
しかし、酷い砂嵐だったな。もしもを想定してアイツに『鱗翅操』で〝囮を形成〟させたが、あと一歩のところで〝X〟に勘付かれたか。
国境線〝ネスト〟付近で行われるであろう戦闘に先立ち、『M ・E』の被験者達———世間では〝レプリカ〟や〝銀メッキ〟と呼ばれる四人は、〝シェイン・テリーズ〟〝ミダ・エゾラム〟と同行していた〝少年〟という正体不明な人物に対して〝X〟というコードネームを付けていた。
シェイン・テリーズとミダ・エゾラムの手の内は判明しているが〝X〟については何も情報を得ていなかった。
外見が子供だろうと油断は禁物だ。外見など敵を欺くためであれば、幾らでも偽装できる。
実際に〝X〟を目の当たりにして、偽装している様子は見られなかったが、奴が何を〝持っているか〟不明な以上———警戒は怠らない。
『鱗翅操』の囮に掛かってくれていれば、あとは楽だったが———仕方ない。
囮が失策に終わった以上、屋上に設置した魔導具『三角鏡』の役目は、もう無い
———魔導具『三角鏡』。
所有者の決めた任意の場所に設置可能。設置した際に〝固定〟〝回転〟を選ぶことが出来る。
回転を選んだ場合、〝右回転〟〝左回転〟のどちらかを選択する。また空中に固定させたまま回転させる事も可能。
事前に決めた命令式を、魔導具に蓄積された魔力量が底をつくまで、命令を遂行する。
光系統の能力を吸収した場合、鏡に写り反射している地点まで、吸収した倍の〝射程〟と〝出力〟で射出する。
〝リンダー・ガヤヌ〟は『鱗翅操』の囮に近づいた〝X〟もしくは、まだ見ぬ潜伏者が『三角鏡』に写った時点で〝現在地〟から狙い撃つ算段であったが、それは叶わなかった。
彼は自身の持ち得る、黒い筒の外装をした装備『射出光』を利用した際の射程範囲は約十五メートル程だが、予め設置しておいた『三角鏡』に対して照射すれば、『三角鏡』から再度〝約十五メートルという射程距離を伸ばす〟ことが出来る。
つまり『三角鏡』を間に挟む事により、元々の射程距離は〝倍〟になる。
用いれば、元々の射程距離『十五メートル』はその限りでは無い。
囮に接近した〝X〟が『三角鏡』に写った瞬間、撃ち抜く作戦は失敗に終わったが、良い事もあった。
それは、あの状況下で〝X〟以外の者が姿を現さなかった事から、奴以外の潜伏者は居ないと見ていいだろう———それに不幸中の幸いにも、その後〝X〟は俺の射程圏内まで接近してくれた。
そのおかげで奴が屋上に顔を覗かせたタイミングで狙撃できた。
一撃で胴体を半分にするつもりだったが、奴に回避された……というより、〝X〟は体勢を崩した様子だった。致命傷とまでは行かなくとも、ダメージは与えられたが——————悪運の強いやつだ。
屋上の下、つまり三階に潜伏したであろう〝X〟を狙い撃てる位置まで〝リンダー・ガヤヌ〟は移動を始めていた。
———奴にこのまま潜伏されては困る。
ミダ・エゾラムが到着するまでに仕留めなくては厄介なことになる。
ミダ・エゾラム、奴は優れた『探知者』だ。
俺の狙撃時に奴が魔力探知を行っていれば、一撃で潜伏場所を割り出すだろう。
単純な武力ではシェイン・テリーズが圧倒的だが、ミダ・エゾラムは俺にとって天敵のような存在だ。
———それ故に作戦遂行の為にもミダ・エゾラムの殺害優先度は、標的であるシェイン・テリーズも高い。
ミダ・エゾラムさえ居なくなれば、残りは時間をかけて片付ければいい。だが、アイツらがどれほど時間を稼げるか分からない。
合流されれば一対三になる———三人同時に仕留めない限り、俺が一撃目を放ち一人仕留めようが、その後に残りの二人に居場所を特定され追われる事になる———そうなれば、かなり不利な状況だ。
その為にも合流される前に、今は〝X〟の排除に力を注ぐ。
〝X〟はまだ三階に居るか?そう思い、奴の潜伏する建物に視線を送ると、奴はなんと———屋上に姿を現していた。
———ははっ!男の顔から思わず笑みが溢れる。
腹部に一撃食らい、攻撃を受けたその場に再度現れた敵を見て、リンダー・ガヤヌは相対する〝X〟から滲み出る覚悟を感じとる。
キマってんなぁ!!———狙撃されたんだぞ?イカれてんのか?
アレが見た目通りの年齢なら、相当肝が座ってるな———それより、ただで姿を見せたってわけでは無いだろうな、奴は何か狙ってると見ていいだろう。
それにしても———奴の佇まいに違和感を感じる。さっきまでとは〝なにか〟が違うが原因は不明だ。
強いて言うなら〝石〟に似た、何かだと感じるが……そもそも奴自身に〝石〟を使われていた場合、魔力は練れないだろう。
魔力———そう言えば、常に〝空の目〟で視覚に収めていたから認識出来ているが、〝X〟の潜伏能力は大したものだ。
〝空の目〟が無ければ完全に見失っていただろう。
〝X〟は周囲の魔力の波に合わせて溶け込んでいる。恐らく、あれはオリジナルで編み出したんだろうか、それとも自然に行っているのか?
自然に行っているのであれば———奴は気配を消す事において〝天賦の才〟を持っていると言える。
潜伏能力において〝特殊能力〟抜きで競った場合〝X〟は俺より上だろうな。
才能あるものは成長しきる前に、才能が完全に開花する前に仕留める。
将来的に敵対されたら厄介な相手は問答無用で葬り去る。
———まあ、シェイン・テリーズを含めた三人のうち誰一人として、生かして返す気はもともと無いがな。
となれば———奴の狙いは〝奇襲〟か?
いや、そもそも奴は屋上に姿を見せている———じゃあ何が狙いだ?
———攻撃を防ぐ防御手段か?それとも俺の狙撃に合わせて、カウンター狙いで攻撃を仕掛けてくるのか?
俺は狙撃時に〝スーツ〟の下を『甲纏』で堅める。カウンターが来て〝スーツ〟を貫通しようが、その攻撃が生身まで到達することは無い。
防御術だったとして、そんなものは関係ない速さで———撃ち抜いてやる。
早めに仕留めよう———俺は足を止め『射出光』を構える。
ここからでも問題ない、屋上は十分狙える。
〝X〟に『射出光』の標準を合わせ、男は能力を発動する———照射された光が一筋の線となり、対象に向かい急襲する。
『赫鞭』こと〝リンダー・ガヤヌ〟の全身甲冑〝スーツ〟は現代風に言いますと〝パワードスーツ〟のような見た目をしています。『射出光』については近未来的なレーザー狙撃銃のような感じです!




