遠離の森 終幕(上)『誓約書の解釈』
———この中に〝犯人〟は居ないか。
サペールを含めた四人の表情を見たが、怪しい挙動を見せた者は居ない。
「…ゴホッゴホッ……〝思考支配〟って……なんなんですう…?」
チギは頭の上にはてなマークが浮かんでいるようだ。
「〝思考支配〟……それは、相手の思考を術者の意のままに操るもの。〝能力〟と言うよりも、〝呪い〟と呼ばれることが多いですね……」
サペールがチギの疑問に答えるが、その表情は苦々しいものだ。
これはハーキュリー・クトグアについて、機密性の高い情報を話したカルサへ向けられたものだ。
「そんな顔をするな。これは必要なものだ」
カルサは『銀星の加護の秘密を話す』と発言した以上、話さなければ誓約書の効力が存在するので、ペナルティを避ける為には仕方の無い行動であった。
だが、『ハーキュリー・クトグアの銀星としての能力の秘密』については、サペールの考えではカルサは話す義務が無かったように感じた。
必要以上の情報を話したカルサに対して向けられた不満。
この行動はサペールにとって、受け入れ難いものでもあった。
「毒や薬品によって、骨以外が溶けた……もしくは、〝思考支配〟……このどちらかが、殺害方法である可能性が、高いと思いますが……カルサさんは、別の可能性があるとお考えですか…?」
恐る恐る尋ねる。この状況下で他の殺害方法が存在するのだろうか?という疑問がワルドの中で湧いてくる。
「ワルド、誓約書を使えばその選択肢を狭めることが出来る。……サペール、準備しろ。」
「……はい。皆さま、カルサの発言に納得していただければ、同意をお願いします。今から誓約書に質問をします。
その質問に対して『是』であれば黄色い光が、『非』であれば青い光が私の右手に、ほんの少しの間宿ります」
不満はあれど、サペールは自らの役割を全うする為、カルサに従う。
カルサは、〝今豪戸〟の残る、ハーキュリー・クトグアの頭蓋骨と思われる遺骨を手に取る。
「質問内容はこうだ、『この頭蓋骨はハーキュリー・クトグアの頭蓋骨で炎によって、燃えて遺骨になった』……この問いが『是』だった場合、もう一度質問できる。次の質問は『この頭蓋骨が燃えた発火源は、ハーキュリー・クトグア自身の〝炎〟の能力だ』これを誓約書に質問する」
「……ええ、わかりました。同意しましょう」
誓約書に備わる、能力の内容を察したのか、クラヌキは特に反論など無く大人しく従う。
その様子を見て、ワルドとチギも同意するが、チギは咳き込んでいて、依然として体調が良くないようだ。
「誓約書に問う———この頭蓋骨は、ハーキュリー・クトグアの頭蓋骨で炎によって、燃えて遺骨になった」
次の瞬間、サペールの右手は『黄色に光る』。
答えは『是』———『ハーキュリー・クトグアの頭部は、燃えて遺骨になった』という事実が情報として落ちる。
「続けて、誓約書に問う———この頭蓋骨が燃えた発火源は、ハーキュリー・クトグア自身の〝炎〟の能力だ」
サペールの右手は———『青く光った』。
つまり、誓約書の解答は『非』———ハーキュリー・クトグアは自身の炎で、燃えて遺骨になった訳ではない。
「青って……『違う』ってことですう…?」
「………そう…なりますね。これは、どういう事でしょうか…」
チギ、ワルドの両名、困惑した表情でカルサへと視線を向ける。
「………状況を整理しましょうか。まず、薬品や毒で溶けた可能性は消えました。そして、炎によって燃えた———これは事実………だが、頭蓋骨を燃やした〝炎〟は、ハーキュリー・クトグアの炎による能力が発火源ではない………では…頭蓋骨を燃やした〝炎〟は、———いったい、誰のものでしょうか…?」
クラヌキは状況を整理するが、答えが出なく行き詰まる。
「…………質問の内容は間違えてないはず……なにか、見落としがあるのか……?」
小さく呟きながらサペールは、これまでの行動で、何か不備が無いかと思考を巡らせる。
「…………誓約書は、『なに』に対して『どう』捉えた」
カルサの思考は、一点に向かっていた。
それは、———『誓約書の解釈』
誓約書も万能では無い。ペナルティの発生する〝虚偽の言動〟は発言者本人が、嘘を吐いた自覚が無い状態で発言をしていた場合、〝ペナルティ〟は発生しない。
これは、〝虚偽の言動〟を行なったという自覚症状が引き金となり、能力が効果を発揮する為である。
いつもお読みいただきありがとうございます!
遠離の森での検視は、あと数話先の「遠離の森 終幕(下)」で終わりになります。
それまでは、『旅の帰路』視点の話が続く予定です!
二章も現在終盤に入ってます!
最後までお楽しみいただけましたら幸いです!




