小国密集地帯脱出作戦②
「ラプト……君と先生に攻撃した人物は、『赫鞭』と呼ばれる〝銀メッキ〟だと思う」
神妙な面持ちで彼女は口を開いた。
「……セキ…ヘン…!?」
「……そうだよ。『赫鞭』の能力は、光を操る力だと言われている。『赫鞭』の戦闘後には、『焼けたような線』が戦場に刻まれている……そう言われるくらい有名で、数々の戦場を生き残っている…という事は、戦闘経験も豊富………もしも、本当に敵が『赫鞭』だった場合……かなり厄介な相手だよ」
そんな奴に俺達は狙われていたのか…!?
ミダの話を聞き、俺の思考は『交戦だけは避けなければ』———その考えでいっぱいだった。
「でも……『豊富な戦闘経験がある』ということは、それだけ、能力について情報が落とされている……とも言えるよ。情報によれば、『赫鞭』は強力な出力を持つ〝光の能力者〟だけど、その能力自体は主に『照射、反射する』類のものだと言われている」
「…………!?……『照射と反射』って光を照らす、ってことか…?」
「うーん……能力単体で言うとそうなるね。でも、ここからが重要なんだけど……『赫鞭』は、『特殊な装備』を身につけているの!これが厄介で、目撃情報によると全身甲冑のような『黒い鎧』と1メートルくらい長い『黒い長方形の筒』を装備しているらしい」
その装備はどういう役割をしているのだろうか?
それに、黒い鎧を全身に纏って長方形の巨大な筒を持っていたら絶対に目に付くはず。攻撃される直前まで、俺は敵の居るであろう方向に視線を向けたが、視認する事は叶わなかった。
「これは諸説あって、予想になるけど……まず、『黒い鎧』は恐らく『風景を転写』していると思われている。『赫鞭』自身の能力である〝光〟を利用して風景に溶け込んで、『透明人間』状態になって、周りの人からは『赫鞭』からの能力による攻撃時以外は魔力探知も効かないし、常時視認できない状態……とされているね」
「…魔力探知が効かない……それに、風景に溶け込んでいる…!?それで視認できなかったのか……でも、常時『見えない状態』なら、なんで目撃情報があるんだ…?」
「そう…そこなんだよ!!この『透明状態』を解いた人間が過去に居るんだよ。ダメージは大して無かったと思うけど、その術者は広域な範囲攻撃を行って『赫鞭』の『透明状態』を解除した」
「……それって、『攻撃が当たれば透明状態は解除される』ということか…!?」
「恐らく…!!『赫鞭』は『特殊な装備』を前提に能力を設計してるんじゃないかな?もしかしたら、『透明化解除』も攻撃では無く……自分以外の〝物体〟が触れるだけで、能力が解除されるかもしれないね……それだけ強力な能力だから、それなりのリスクを負っていると思う…」
言われてみればそうだ、幾ら自分自身の〝光の能力〟ありきといえど『透明化に魔力探知無効』なんて能力は、相応のリスクを取らなければ得られないものだろう。
「鎧が透明化なら……『黒い筒』は攻撃手段…?」
「残る選択肢的にそうなるね。光を圧縮して、ピンポイントで標的に向けて照射している………それは、光熱の『光の刃』のようなものである可能性が高いと思う」
反射が風景に溶け込む『透明化』で、照射は黒い筒を利用して、ターゲットに向けて光熱を飛ばしている『光の刃』———『赫鞭』は攻防共に強力な能力を有している。
しかも、———奴は〝銀メッキ〟だ。
瑆由来の『甲纏』と『鱗翅操』を抜きにして、これほどの能力を有している———恐ろしい存在だ。
『赫鞭』……奴に本来の能力に加えて〝瑆〟の力を使われては逃走は難しいだろう———俺は自分自身に重くのしかかる責任の重大さを改めて自覚する。
「ラプト、君の役割は重要だけど……気負い過ぎないように。どうにもならなければ、逃げればいい。私も状況によっては逃げるし…!!それじゃあ、今から作戦を組むよ。」
彼女の言葉は、俺の心の乱れを優しく包み込んだ。
それ故に誓う———何がなんでも能力を発動させて、この状況下から切り抜けると。
「…うん、ありがとう…!!ところで、上空…?にいた人物については……いいの…?」
「あー、〝アレ〟が居るかどうか、分かんないんだけど……〝先生の術〟が発動してるのに、『敵が私たちを認識できていた』状況的に恐らく居ると思う。〝アレ〟については、作戦を組む最後に言うつもりだったんだけど、先に言うと対策不要!!もし地上まで降りて来たら、対応は『小国密集地帯の軍隊』に任せるから、私たちが取る行動は、どの方向でもいいから『迷わずその場から出来るだけ遠くに離れる。』これくらいかな」
迷わず遠くへ離れろ…!?上空から監視しているのは、小国密集地帯の軍隊が対応する程の危険人物なのか…!?
「作戦だけど、私達は二手に分かれて『スーナテボ』に転移する〝ネスト〟に向かう。私の『口パク』を読んでくれていれば、先生もそこを目指しているからね。それに…敵は四人、上空の奴は無視していいから、問題は地上にいる三人……そのうちの一人は『カーテボ』に移る〝ネスト〟を監視してると思う。これは、私達に来た道を引き返されて、逃走される可能性を潰す為に、そこを監視する可能性が高い」
驚いている俺の様子を尻目に、何事も無かったかのように彼女は作戦を説明し始めた。
「そして、転移先が『スーナテボ』の〝ネスト〟を監視するのが一人。後の一人はフリーだから、私たちが来る可能性の高い『スーナテボ』行きの〝ネスト〟の近くで待機していると思う。私たちは予定通り、『スーナテボ』に転移する〝ネスト〟に向かうよ」
「———はあ!?………そこは一番危険なんじゃないのか…!?第一…『カーテボ』や『スーナテボ』に転移する〝ネスト〟以外の選択肢は無いのか…!?」
ミダは何を考えてるんだ!?真剣に話を聞いていた時に、いきなり殴られたような不意打ちを喰らった気分だ。
「まあまあ、落ち着いて。実際には〝それ〟以外の選択肢は無いんだよ。私も…恐らく先生も、小国密集地帯の土地勘は無い。来た道を帰るくらいしか地形を覚えていない。他の〝ネスト〟が何処に繋がって居るか分からないし、転移した先で他の〝銀メッキ〟に待ち伏せされていたら、そこで詰む」
ミダの説明は理にかなっている。だが、敵は何故———
「———ミダとシェインの行き先を知っているんだ?」
〝銀メッキ〟は『カーテボ』と『スーナテボ』へ俺達が通ることを知っている前提で、ミダは作戦を説明しているように感じる。
「それはね…来る時に付けられていたんだと思う……敵が〝ここ〟で待ち伏せしてたのは、狙いがピンポイント過ぎる。行きは先生と私だけ、帰路はそこにラプトを加えた三人、何処を通行するかの情報が漏れるなら、行きしか無いよね。敵は『サルテボでの目撃情報しか得ていなかった』そう結論すると、ここで張っていた理由は説明がつく」
「それなら……『カーテボ』と『スーナテボ』を通行した可能性に行き着くんじゃないか…?」
わざわざ『サルテボ』で待ち構えた行動に疑問が残る。
「それは、〝ここ〟が廃墟に近い場所だから。私たちが今いる、この建物も含めて小国密集地帯の国の中でも、敵を撒くときに走った人通りの多い場所を除いたら、かなり人が住んでいない場所だよ。———つまり、大通りが行商人の通り道になっているくらいで、他は人が殆ど居ない。だからこそ、さっきみたいに敵と交戦しても騒ぎになりにくい」
三人で移動している時は『カーテボ』と比べて、人の通りが多い印象だったが、確かに大通りを外れた『この場所』では人を殆ど見かけない。
今、俺達が居るこの建物も言われてみれば、人の暮らしていない廃墟である。
恐らく、大通り以外は〝ここ〟と同じように閑散としているのかもしれない。
「敵は騒ぎにならない場所を選んだってことか……」
「そういうこと!小国密集地帯の一つ一つの国は小さくても、ちゃんと軍隊を保有している国が事態の鎮圧に乗り出せば、地上にいる〝銀メッキ〟三人程度だと、ひとたまりもないからね……それ故に最初に言った、空から監視している〝アレ〟が来たら、軍隊が出てくるから……降りて来ないと言えるね」
俺は改めて実感する。上空の監視者が降りてくれば、大事になると。
———彼女の発言から俺はそう感じ取った。




