小国密集地帯脱出作戦①
一時的にでも風が立つと、小国密集地帯の地面の大部分は土で構成されている為、土埃が立ち込める。
それが強風ならば、遠くの景色への視界を遮る事もあるが、よっぽどのもので無い限り目を凝らせば、近場への視界は確保できる。
そんな環境下で、俺は『サルテボ』から『スーナテボ』へ転移できる国境線〝ネスト〟の周辺を監視していた。
気配を断ち、息を殺して、その時が来るのを待っているが、〝ネスト〟を行き来するのは行商人が殆どで、たまに冒険者のような得物を携帯した風貌の人物や、家族連れのグループが通行するくらいで、俺たちが交戦した〝銀メッキ〟の姿は確認できない。
———まだか?
建物の陰に身を潜めて、いつでも出撃できるように、〝ネスト〟周辺の状況の変化を事細かに観察しているが、国境線周りの状況に変化は見られない。
今、この状況下で考える事ではないが、ミダの思案した作戦は成功するのだろうか?
俺の知識や経験では、ミダには敵わない。
ミダの持つ敵の情報や、潜って来た修羅場の数は、今の俺では到底ミダと比べることは出来ないだろう。
それ故に、ミダの考え付いた作戦が最も成功確率の高いと感じた。
ミダの考え通りにことが進めば、シェインと合流して三人で小国密集地帯を脱出できる可能性が高い。
———俺はそう結論を出した。だから、ミダの作戦に乗ったが、本当に上手くいくのか?
その疑念が、頭の中にぐるぐると付き纏う。
作戦に乗った以上、『成功すること』以外考えてはならない。上手くいくことを考えた上で行動しなければ、本来であれば成功する作戦でも失敗してしまうかもしれない。
しかし、———不確定要素の存在が大きすぎる。
作戦の軸になっている、虚を突き敵の行動を制限する役割は、俺の〝能力〟に掛かっている。
だが、ミダの予想した———俺の〝能力〟について、説明されたが何も確証が無い。
『それをイメージすること』が重要だと、ミダは言っていた。
ミダは遠回しに、『成功する事を想像しろ』と俺に伝えていたのだろうか?
もしも、いや……どうだろう?———ミダの解釈とは違うかもしれないが、今考えれば『思い込むこと』も能力の発動には、重要な要素なのかもしれない。
***
時はミダの立案した作戦に移る、少し前まで遡る。
「———だよ。いい?これが私の予想した、ラプトの能力だよ」
「…………本当にそれで合ってるの…?第一、俺は〝それ〟を見たことがない」
そう———今聞いた、ミダの仮説の前提条件を俺は満たしていない。
それに能力説明中にミダに言ったが、俺の両親の頭部が燃えた理由については、やはり納得ができない。
その現象に対する、先程聞いたミダの返答は、かなりの〝レアケース〟だった。
状況証拠だけ見て、考えれば『そうなる』のかもしれないが、あまりにも都合が良すぎる。
「直接じゃなくても、恐らく君は何かを介して知っている。そう結論付ければ、納得できるんじゃないかな?後は……ラプト自身で、これまでの話を振り返って、それをイメージすることが大事だからね!」
ミダは俺の意見に耳を傾けていない———俺の能力について決めつけてしまっている印象だ。
「……よし!ここからは、先生と合流して小国密集地帯を脱出する作戦を練るよ。」
いつの間にか、能力についての話しは終わった事にされ……と言うより、これ以上聞くな。とにかく、イメージしろ。ということか?
「敵は恐らく、四人居る。一人は私と交戦した長剣使い。もう一人は、先生とラプトに攻撃した人物。残りの二人は偵察隊、『サルテボ』と『カーテボ』の〝ネスト〟方向から尾行していたのが一人と……これは私の探知外だから想像の話しになるけど、上空から見張っている〝奴〟もいると思う」
魔力探知に秀でた、ミダの探知外———つまり敵は、はるか上空に居る事になる。そういえば、シェインも空を見上げていたような………。
「———おーい!ラプト君ー!!先生とラプトが接敵した敵の特徴って何か覚えてる…?」
「…あっ…ごめん!!……俺とシェインに攻撃した敵の姿だけど、見えなかったんだ………後ろから攻撃されてると思って、振り向いたけど…そこには『誰も居なかった』んだ」
ミダは「なるほど」と呟いて、なにか考えを巡らせている様子だ。
「考えにくいけど……建物や地面に『線みたいなもの』が走ってなかった…?」
「………たしか、攻撃された後に……なにか……あった気がする……………」
なにかしらの変化が、あったことは覚えている。
シェインが攻撃を受けて、あの時は緊迫した状況だった———そういう瞬間の記憶は曖昧になりがちだ。
だが、この情報が重要ならば、順番に当時の光景を思い出さないといけない。
確か、攻撃を受けた後に地面へ目をやると〝なんらかの〟変化があったと記憶している。
〝それ〟はなんの変化だった?思い出せ、当時の出来事を順番に———そうだ!!
次に、後ろから攻撃されていると考え、振り向いた時に敵の姿が目視できなかった。
その出来事が、俺の中で強く印象に残っている。
その後、敵の二撃目の後、俺は〝なに〟を見た?
ふと、外の小国密集地帯の地面に視線を向けると風が吹いて、地面から10センチもしない程の低い位置から土煙が舞っていた……………煙……!?
この土煙が、詳細に俺の記憶を呼び起こす。
そうだ…!!俺は地面を見て———敵が攻撃したであろう、小国密集地帯の地面に〝焦げ茶色の線〟ができていた!!
これは、たしか一撃目の時も攻撃された地点の地面にも『煙を上げながら、焦げ茶色の線』が引かれていた!!
「…………あった———煙を上げながら、『焦げ茶色の線』が地面に走ってた…!!」
「焦げた線……!!………やっぱり、『あいつ』が出張って来てるのか……それは厄介だ。…………でも、何故…?わざわざ、小国密集地帯まで……」
彼女の表情は、今まで以上に曇っていく。
俺とシェインが接敵した人物は、ミダが作戦を組む上でかなりの不安要素になりそうだ。




