小国密集地帯脱出作戦③
「行き先については『スーナテボ』行きの〝ネスト〟で決まったけど………問題は、どうやって突破するかだね」
彼女の様子を見るに、説明は一区切りついた印象だ。
———明確に作戦を組み始める前に、気になっていた事を聞いてみるか。
「………そういえば、聞き逃してた事が〝二つ〟あるんだけど………一つは、ミダが交戦してる場所に近づいたら、『ミダの声がいきなり聞こえた』んだよね……それまで、刃が触れた金属音は聞こえてたけど、一定の範囲に近づくまで『ミダの声だけ遮断されてた』ような印象だね。二つ目はシェインの〝認識阻害の術〟が無効化?されていた気がするんだけど……なんでか知ってる?」
完全に聞くタイミングを逃していた内容だ。恐らく立ち回り的に、敵はシェインの能力を熟知している様子だった。
「前者は〝長剣使い〟の能力だろうね。一定の範囲内の術者のから発生する〝音〟……いや、交戦中の金属音が聞こ得てたって事は……『対象者の〝声〟を遮断する』能力の可能性が高いね。後者については………そうだね、———ラプトは先生の〟術の効果範囲〟を覚えてる?」
「…うん。シェインを中心とした半径100メートル圏内の術者と……術者であるシェインが認めた人に〝認識阻害の術〟が適用される。そして、認識阻害の効果範囲も半径100メートル圏内の他者からの認識を阻害する……だよね」
「その通り!今言ってくれたように、『半径100メートル圏内』の相手じゃないと認識阻害は働かない。つまり———」
「もしかして、『赫鞭』は術の効果範囲外から攻撃していたのか…!!?」
ミダが話し終える前に、俺は思わず口走ってしまう。
はっ、と我に返り、恐る恐る彼女の顔を覗くと頬を膨らませて、眉間に皺を寄せている。
「……人の話は最後まで聞けー!!!」
叱られてしまった。かなり、お怒りのようだ。
「………ごめん…!」
ここは、おとなしく謝っておこう。
話を遮ってしまった俺が悪いので、怒られてしまうのは自業自得だ。
「まったく………。能力の射程が分からないから『赫鞭』に関しては、その可能性もあるけど、上空にいる〝アレ〟が私たちの位置を把握して、地上の〝銀メッキ〟に連絡……いや、それだとラグがあるから………」
彼女は自身の下唇の辺りに人差し指を当てながら、斜め上方向に視線を向け、考え込んでいる。
「先生の術は、範囲内の人物からの『認識を感知しづらくする』ものだから………上空から監視して、その光景をリアルタイムで中継する———能力か〝魔導具〟を使って、視覚で私たちを理解することによって〝銀メッキ〟は能力の効果から逃れている可能性が高いんじゃないかな…?」
———〝魔導具〟!!その選択肢が完全に頭から外れていた。
「つまり、『認識を薄くして、姿や声を感知しづらくする』術であって、姿を消せるものでは無いから……〝視認〟されて———存在を〝認識〟されば、それ自体の効果は打ち消される。と、言えるのか」
視覚自体で効果範囲外から、姿を確認できていれば、認識阻害も効果を成さないのだろう。
「先生と、『スーナテボ』に転移する〝ネスト〟で合流できて、再度『認識阻害の術』を掛けてもらえたら———『敵は上空から見た、私たちの姿しか視認できない』」
「上空に対して目眩しをできれば……『敵は再び認識阻害の効果を受ける』のか?」
これが事実なら、かなりのアドバンテージだ。
「可能性は高いよ…!!一番は空の〝アレ〟を撃ち落とせたらいいけど……それは無理だから、〝ここ〟———小国密集地帯の地の利を生かそう」
「…………地の利…!?もしかして…〝土煙〟か…!!」
風が吹くと起こる、目眩しになるもの。小国密集地帯の土地を生かした〝土煙〟これなら目眩しになるかもしれない。
「そう…!!それを利用しようと思ってる…!!でも、小国密集地帯で自然発生する風だと、よっぽどじゃないと上空までは行かないから、私が魔術で『風を起こす』。これは、一回しか出来無いから、先生と合流して、その時が来たらラプトに合図を出すね」
「わかった…!合図が来たタイミングで、三人で〝ネスト〟を超えるってことでいい…?」
この作戦なら、敵と交戦しなくて済む…!!
俺の〝能力〟に掛かっているとミダは言っていたが、その必要は無くなりそうだ。
「いや、私が合図をしたら、ラプトは〝敵を奇襲する〟んだ」
「———え?」
俺は、何かの聞き間違いかと思った。しかし、———彼女は続けてこう言う。
「目眩しの後、『認識阻害の術』を発動して〝ネスト〟を超えても〝銀メッキ〟は土煙が吹き荒れた瞬間、私たちが起こしたものだと推察して、恐らく追ってくる」
「じゃあ……どっちみち交戦はしなければならない。そういうことか…?」
「うん。〝敵が追って来れなくなる〟くらいのダメージを与えなきゃ———私たちは逃げきれない。それに〝ネスト〟を超えた先で挟撃に会うかもしれないし……敵の戦力は削いでおかないと」
彼女は申し訳なさそうに、そう語る。
その感情は、俺へのしかかる重圧を察してのものだろうか。
「わかった…!!当初の予定通り、俺は能力を使って役割を果たすから…!!」
そうだ、最初の予定と何も変わらない———俺はやるべき事をやるだけだ。
「………ありがとう、ラプト」
彼女は節目がちに、小さく呟いた。
ミダとシェイン———それに俺自身の為にも、後には引けない。そう覚悟を決めたら、不思議とこれまで重くのしかかっていた、不安な気持ちが払拭されていく気がした。
「………作戦だけど、〝ネスト〟付近で先生の気配を確認出来たら、私が〝ネスト〟の近くに出て、敵に見えるように姿をあらわす」
「『スーナテボ』に繋がる〝ネスト〟付近には、敵が二人いる想定だと……二人を相手にするって危険じゃないか…?」
「恐らくだけど、私を仕留めに来る敵は一人だと思う……それも、『赫鞭』は潜伏すると想定できるから、それ以外の誰か…かな!先生が生きていて、潜伏している可能性がある場合、敵は無闇に姿を見せないと思う」
「確かに、能力の特性上『赫鞭』は外れるな…」
———『赫鞭』以外、とミダが言った理由は奴が攻撃してきた場合、その一瞬で魔力探知されるリスクがあるし、攻撃してきた方向が特定されるかもしれないので、『赫鞭』は選択肢から外れるということか。
「交戦前に『風を起こす準備』をして、接敵して少ししたタイミングで土煙を巻き起こすね…!!〝長剣使い〟の足に一本刺したから、手持ちのダガーは残り一本しか無いけど、少し時間を稼ぐぐらいなら問題無いね」
「タイミングはわかった…!!けど、思い出したことがあって、敵の狙いについて……気になることがあるんだ『赫鞭』から攻撃を受けた時———どう考えても、標準が俺に定まっていた気がするんだ」
シェインが負傷した原因は明らかだ。『赫鞭』の初撃から、俺を庇ったせいで腕を切断されている。
次に繰り出された二撃目も、標準は俺を捉えていたように感じる。現にその攻撃もシェインが庇ってくれなければ間違い無く、俺は負傷していただろう。
「その理由は単純だよ。私やラプトを狙った方が、敵にとって先生を仕留めれる可能性が高くなるからね。私たちを庇いながら戦闘する事は、先生にとって重しとなる。つまり、先生の動きを制限できるから…敵は標的である先生よりも、〝私とラプト〟を狙ってくる」
「〝銀メッキ〟は俺の素性を知らないけど、シェインの近くに居たから……狙われたってことなのか…?」
ミダが狙われるのは、まだ説明がつく。行きのタイミングでシェインに同行していたのを目撃されているだろうから、それは理解できる。
だが、———俺は小国密集地帯を通行するのは初めてだ。
「恐らくね。それくらい〝銀メッキ〟は、なりふり構わないと思った方がいい」
俺への追ってでは無い可能性は高くなったが、〝銀メッキ〟という存在の〝危険性〟を想像してしまう。
無関係な人物である可能性があっても、容赦無く手にかける集団———そんな奴らが『この世界に存在していいのか?』
———俺の中で疑問とともに、怒りに似た感情が渦巻く。
「———プト、ラプト!!大丈夫…!?」
「……えっ!?なに!?」
急に聞こえたミダの声に驚き、俺は我に帰る。
「今すごい顔してたよ…!!?」
ミダは俺の両肩を掴み、ゆさゆさと揺らしている。
「ごめん……ちょっと、考えごとしてた」
———こんなんじゃだめだ、今は余計な事を考えている余裕なんて無いのに。
今はとにかく、この危機的な状況から脱出することだけを考えないと。
「……えっと…!作戦に戻るけど、土煙が立ったら先生が〝認識阻害の術〟を使って、その後にラプトの〝能力〟の出番…!!発動に成功したら、そのまま敵を鎮圧できるかも!不発に終わったら…私と先生で敵に、ある程度のダメージを負わせる。『赫鞭』については、奴が攻撃して来たら魔力探知で場所を特定して、その後交戦する。これは、かなりのギャンブルだけど仕方ないね」
潜伏状態の『赫鞭』には、魔力探知が通用しないから、索敵能力に秀でたミダでも探知できないのだとしたらお手上げ状態だ。
奴の潜伏は『黒い鎧』に〝反射〟して潜伏している。
じゃあ、ミダが〝土煙〟を起こしたらどうなる?…………いや、それすら反射するだろう。
……ん…?待てよ、奴の能力は確か———
「作戦はわかった…!それと、思いついた事があって……もしも、土煙を上空に飛ばす前に……可能なら、最初だけ地上一帯に巻き起こせないか…?」
「もしかして………『赫鞭』対策…?アレは風景を転写してるから、〝土煙〟も反射して擬態すると思うから、視認できないんじゃないかな…」
直ぐに彼女は俺の意図を読んでか、自身の見解を示す。
「半分あってるよ。『赫鞭』対策はそうだけど、狙いは〝それ〟じゃないよ。もしも、〝土煙〟が『赫鞭』に一定量当たって———〝それ〟が、奴への『攻撃もしくは触れた』という判定になれば、『透明状態そのものを解除する事』が可能なんじゃないか…?」
俺が口にした『半分あってるよ』の言葉は、少しミダ風に言ってみた。
「———!?…………それは、あり得る……かもしれない……試す価値は十分にあるよ…!!!もし成功すれば、『赫鞭』の居場所を特定できる!!」
彼女の表情は喜びよりも、驚いた様子が勝る印象だ。
「ラプト…!!凄いよ!よく思いついたね!!」
「まあね!『赫鞭』について考えてたら、もしかしたらって思って」
ミダ・エゾラムから見た、ラプトムルラン・メラルダへの印象———強みは、気配を消し周囲へ溶け込む〝潜伏能力〟だと推測していたが、真の強みは得たばかりの情報や少しの綻びから、あらゆる局面を粉々に打ち砕く〝思考力〟にあると評価を改める。
***
そして時は進み、今に至る。
ミダはまだか?それに、シェインらしき人影を俺は視認できていない。
———シェインは片腕を失っている。
まとも考えたら、その状態から〝ここ〟まで到着するのも困難だろう。
いくらミダが、合流場所を『口パク』で伝えたと言っても、シェインがここまで来れる確証は無い。
ここには来なくてもいい。だから、どこかでシェインが生きてさえいれば、それでいい———俺はそう願った。
次の瞬間———『スーナテボ』へ繋がる〝ネスト〟に一つの人影が歩み寄る。
何度もその人影を見て来たから、はっきりと認識できる———その影は〝ミダ〟だ!!




