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遠離の森⑩



 ケルベロス討伐作戦が失敗に終わり、およそ二年という月日が経過しようとしていた。


 『サフムーン』に吉報が舞い込む。その情報は、『ラファエラ』に潜伏している情報筋から得たもので、内容は『先月〝法木天〟で銀星シルバスになったハーキュリー・クトグアという人物が、特異な加護を保有している』というものだった。


 加護の詳細について、情報源に確認を取ったところ、その加護は『サフムーン』が〝欲している能力〟で間違いない事を確認する。


 〝特異な加護〟———それは、一年以上前から〝ケルベロス討伐〟に向けて『サフムーン』が求めている〝炎自体を無効化する加護〟であった。

 

 『サフムーン』は、すぐさま〝法木天〟へコンタクトを取り、銀星『ハーキュリー・クトグア』をケルベロス討伐作戦へと組み込む、段取りを始める。


 法木天にとっても、ハーキュリー・クトグアの『炎を無効化する加護』は貴重なものであると考え、交渉は難航すると思われていたが、『ハーキュリー・クトグア』のケルベロス討伐戦への参加を、法木天は二つ返事で了承した。


 しかも、討伐隊の軸となり参加する『ハーキュリー・クトグア』は『炎無効化』に加えて、ケルベロスのコアの位置を看破する魔眼『鑑定眼』まで保有していた。


 それら二つが機能するか否かは、ケルベロスと対峙した時にしか分からないが、もし、その二つが遺憾なく効果を発揮すれば、それはもはや討伐隊を組む必要は無く、『ハーキュリー・クトグア』———彼一人で討伐出来てしまうのでは?


 そう考えてしまう程に、ケルベロスにとって『ハーキュリー・クトグア』の存在は天敵だった。


 不気味な程に、話が順調に進み過ぎていた。


 『サフムーン』が〝法木天〟にコンタクトを取った翌月、『サフムーン』『トリデルゴロ』そして、銀星シルバスのハーキュリー・クトグアを含めた、『サンウェナス』〝法木天〟所属の能力者6名が加わり、3カ国合同の討伐隊を編成し、ケルベロス討伐に向けて再度挑むとなった。


 前回、『未開拓地域』へ足を踏み入れた時から、一年以上の月日が経過していた為か、以前赴いた時に比べ若干ではあるが、ケルベロスの鎮座する区画までの道のりが通行しやすくなっている印象を持った。


 それは、少しの変化ではある。


 人が頻繁に獣道を通行すれば、足跡や草木を踏みしめて歩行するので、必ず形跡のようなものが残る。

 かつて、その道は獣道で通行しにくいものであったが、今や難なく歩行できる程の一本道に変わっている。


 つまり、『未開拓地域』に〝人が居住〟している可能性が高い。

 元々『未開拓地域』に在住していたが、訳あって国を追われた者が流れ着いたのだろうか?


 そんな疑問を抱えながら、一行はケルベロスの位置する場所まで到着する。


 結果は、呆気ないものだった。


 ケルベロスの前に立ち、恐れること無く、ケルベロスの炎で形造られた体に飛び込んだ。


 ハーキュリー・クトグアの通過したケルベロスの部位から、次々と炎が掻き消されていき、それが軌跡となりケルベロスの胴体は両断され、三つ首にかけられた首輪と共に轟音を響かせながら、その体躯は地面へと倒れる。


 やはり、———ハーキュリー・クトグアの加護は、想像以上のものだった。


 掻き消された炎が再び再生されると考え、討伐隊は身構えたが再生されるどころか、二つに分かれたケルベロスの胴体から炎の勢いが徐々に弱まり、完全に炎自体が掻き消され、数十メートルを超える体躯は消滅する。


 残ったものは、ケルベロスがそれぞれの首にかけていた、〝銀色の首輪〟が三つ残されただけだ。


 『何が起こった?』隊全体に動揺が走ったが、討伐隊はその疑問への答えを直ぐに知ることになる。


 「これが奴の〝コア〟です」


 ハーキュリー・クトグアの右手には砕けた水晶の欠片が見える。それを、討伐隊の方へ向けそう発言する。


 彼から話を聞くと、〝鑑定〟を終えて〝コア〟の場所を看破したので、ケルベロスに向かって突撃して〝コア〟を奪取した後、それを握りつぶしたそうだ。


 約二年、『サフムーン』にとって悩まされていた事案が、意図も簡単に解決されてしまう。


 戦利品の〝銀色の首輪〟は、三つ存在するので『サフムーン』『トリデルゴロ』『サンウェナス』が、それぞれ一つずつ所有する運びとなった。


 高い耐火性能が期待できるので、三カ国とも武具に加工すると考えられる。


 辺りに散らばった、ケルベロスの〝コア〟だった欠片は『サンウェナス』〝法木天〟が持ち帰ることとなった。


 戦果を見れば、それについて誰も文句を言えない状況だった。


 これにて、ケルベロス討伐作戦は幕を下ろす。




 ———だが、話はこれだけでは終わらなかった。




 それは翌日、ケルベロス討伐を終えて帰路に着いていた討伐隊の道中に問題は起こる。


 何者かによって討伐隊の周囲は囲まれた。

 敵の数は三十人前後だろうか。集団の統率者とみれる人物が合図を行い討伐隊は強襲された。


 不気味なことに、交戦状態は5分と持たずに敵は撤退していった。


 敵の損害は把握できないが、討伐隊の方は軽い負傷者は出ても死傷者や重傷者は出なかったのは幸いだ。


 行きがけに湧き出た疑問、『未開拓地域』に人が居住しているのでは?今の状況は、その問いに対する答えだろう。


 ここはマナ濃度も正常とは言い難く、魔物が湧いてくるような土地だ。とてもじゃないが、人が住める場所とは言い難い。


 それ故に、どこの国のものでも無く『未開拓地域』と名付けられている。———この土地が開拓される、その時までは。


 こちらを攻撃したのは、『未開拓地域』に住む者たちの牽制だろうか?

 安易に、この土地に踏み込めば、襲撃するという意味があるのだろうか?


 しかし、敵の行動には違和感が残る。


 何故、やつらは隊を襲撃した後、直ぐに撤退した?牽制にしては、弱いように思う。


 こちらの被害は、ほぼ無いに等しい。


 なにか〝目的〟が存在して、それを達成できた?


 もしや、———そう思い負傷者名簿を確認する。


 やはり、そうか。負傷者名簿には、『ハーキュリー・クトグア』彼の名前が載っていた。


 奴らの狙いは、ハーキュリー・クトグアか。


 彼のもとへ駆けつけるが、切り傷が一箇所あるだけで他はなんとも無く、その切り傷も毒などの類では無かったが、ハーキュリー・クトグア本人は愕然とした様子だった。


 襲撃されたのが、よっぽど応えたのだろうか?誰もが、こんな場所———『未開拓地域』で敵に強襲されるとは考えない。


 しかし、銀星シルバスには『甲纏カイロス』という強力な防御術が備わっているのでは?

 切り傷を見て疑問に感じたが、余計なことは言わないでおこうと私は口を閉ざした。




 *****




 「これが、〝とある人物〟による『ケルベロス討伐戦』の簡単な記録だ。お前ら二人は知ってるだろうから、ワルド、チギ、お前たち二人に向けた説明だ。なにか、気になることはあるか?」


 「………それは、続きがある……ということですか?」

 口を開いたのは、返答を促された二人では無く、クラヌキが質問する。


 「はぁ…まぁ時間も無いし、お前でいいか。……ああ、そうだ。これには続きがある」


 「本当に言うんですね…!?誓約書レーゲがあるとは言え、私は無関係ですからね……!!」


 そう発言するサペールの顔の口に、カルサは人差し指を当て『シー』というジェスチャーをする。


 カルサの目は鋭くなっており、『黙れ』という視線をサペールへ向けている。


 「…………私は悪くないのに……なんで、いつもこうなるか……」

 サペールはその場に座り込んで、ぶつぶつ言いながら項垂れてしまう。


 「話を戻す。ケルベロス討伐の翌日、襲撃を受けた日から、ハーキュリー・クトグアは銀星シルバスの強みである、『甲纏カイロス』と『鱗翅操ペルーダ』の機能を失っている………正確には、自身の〝ミクロス〟の制御が出来なくなっている」


 「…………!?…なるほど、『甲纏カイロス』が……………………つまり…守られていない、ということか」


 眉間に皺が寄り、表情を作ることも出来ない程にクラヌキに動揺が走る。


 「ああ、お前の想像通りだ。『甲纏カイロス』が機能不全となれば、肉体はもちろん『精神面』におけるプロテクトが存在しない。そうなれば、当然……〝思考支配マインド・カース〟などの精神に対して、影響を与える『能力』について耐性がなくなる………それは、つまり〝能力の誘発〟が可能になる」


 「〝思考支配マインド・カース〟………犯人は、ハーキュリー・クトグア本人の能力を〝強制的に発動させた〟………貴方は、そう言いたいのですか…?」


 「あくまで、それは可能性の一つだ。そうだろ?」


 カルサは四人に対して順番に視線を向け、一人一人の表情を観察した。


 魔力を纏う煙が立ち込める、この状況下でただ一人———カルサの思考は正常に回っていた。


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