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遠離の森⑨




 この、〝煙〟についても調査したいが、今は後回しにせざるを得ない。カルサは先の見えない、現状に苛立ちを覚えていた。


 まずは———目の前の問題を片付けなければ。


 「まだ彼が、誤って自分自身に能力を使ってしまった、と断定する事は出来ませんよね?それ以外の〝このような結果〟を招く可能性について考えましょうか」

 クラヌキは、足元に転がる頭蓋骨に視線を落とし、そう語る。


 「勝手に話を進めないでくれるか?誰も、そのような断定はしてないだろ」


 「…ふぇっ……あっ………」

 気まずそうに、チギは目を背ける。

 そのリアクションを見るに、チギはハーキュリー・クトグアは〝自滅〟したと断定していた様子だ。


 「チギさん、お気になさらないでください。私もそう思っていましたから」

 サペールはチギの耳元で小さく囁いた。


 もちろん、それは本心では無いが、その言葉を聞いたチギの表情は少し明るくなっていた。


 「犯人がもし、『この状況下』を利用しているとすれば———それが、意図的か偶然かは定かではないのですが、もう一つの可能性が見えてきます」


 「この状況を利用した、他の可能性…ですか…………〝火災〟そのものを利用した…?」


 サペールの発言から『なにか』を読み取ったワルドが呟く。


 「そうだ。昨夜、遠離の森は火災に見舞われた。消火活動後の———その状況下で比較的、日の経っていない頭蓋骨が発見されれば、おそらく『燃えて頭蓋骨になったのだろう』と考えてしまう。だが、『燃えた』という事実は何処にも存在しない。ここに存在するのは殺害されてから、そこまで時間の経過していない、肉と皮が付いた遺体と肉と皮の無い頭蓋骨だ」


 「その結果を作ればいい………ということですね。しかし、何故そのような事を……」


 ワルドはカルサの意図に気づくが、それと同時にワルドの中で動揺が生まれる。


 「…………結果を作る……ですう…?」


 「えぇ、そうですね。私とチギは遠離の森で消火活動を行いましたが〝この状況〟そのものが考えを誘導してしまっていたんです。〝燃えないもの〟が〝燃えた〟それは何故?という風に考えていましたが、亡くなって日の浅い遺体と頭蓋骨を見たら、『頭部のみ燃やされた』と考えてしまいますが、他の可能性があります。それは……『骨以外を無くしてしまう』という方法です」


 「…………!?……ゴホッ…ごめんなさいですう。さっきから……ゴホッ…咳が出てしまいますう……」


 「この環境下では、仕方ないですよ。それより、大丈夫ですか…?」

 サペールはチギの背中をさすりながら、優しく語りかける。


 「なんらかの〝毒〟もしくは、〝薬品〟により、骨以外を溶かしてしまった。その可能性は私も考えましたが………犯人がわざわざ〝それ〟を行う理由が気になります。同僚である、お二人に聞きます。彼がこの様な最後を迎えた事について〝なにか〟お心当たりはありますか?」


 「三つ首の獣———〝ケルベロス〟討伐を達成した、ハーキュリー・クトグアへの報復じゃないか?」


 それは、ハーキュリー・クトグアの生涯で最も大きな功績。



 ******



 〝番犬殺し〟の二つ名を得ると共に、彼を一躍有名にした討伐作戦。


 〝ケルベロス〟———その獣は、『未開拓地域』の一区画を守護している、三つの犬頭に犬と思しき胴体をした、全長にして30メートルは優に超える巨大生物。


 三つ首の獣、ケルベロスは特徴的な外見をしていた。

 それは、その巨大な体躯が炎で包まれており、それぞれの首に〝銀色の首輪〟をかけている。


 そして、三つある真ん中の犬頭に付けられている首輪に、古代文字で『ケルベロス』と書かれていたそうだ。


 ケルベロスは『未開拓地域』の一区画の前で、門番の様に佇んでおり、周辺諸国はケルベロスが邪魔で、そこから先の地域を開拓する事ができないでいた。


 『サフムーン』と『トリデルゴロ』は合同で、〝耐火性能の高い能力者〟と〝高出力の水術の使い手〟を中心に討伐隊を編成し、ケルベロスの討伐に向かったが、結果は40人以上で編成した討伐隊の内、生き残って逃げ仰せたのは、『サフムーン』所属の能力者3名だけであった。


 生存者3人とも、全身に酷い火傷を負っていた。逃げる途中で回復効果のある飲み薬や、塗り薬を使用してギリギリの状態で帰還して来たのだろう。


 その3名の証言によると、『トリデルゴロ』の魔術師が、ケルベロスに対して水の魔術を放ったが、その攻撃がケルベロスに命中する前に、水が蒸発していたそうだ。

 おそらくだが、炎の温度が高過ぎて当たる前に蒸発したのだろう。


 次に、あくまでも〝ケルベロス〟は『炎を纏っている』だけで、その内側は本体———いわば、ケルベロスの肉体があると想定されていた。


 その為、複数人の能力者で耐火性能を最大まで付与した、大剣でケルベロスの前足の指を両断する勢いで、剣を振り下ろしたが———そこに、手応えは無かった。


 ここで判明する———ケルベロスの正体は『炎で形作られた生物』であった。おそらく、〝コア〟となる存在が、あの図体の何処かに存在して、それを『破壊』もしくは、ケルベロスの体から『一定の距離まで引き離せれば』消滅するのだろう。


 そう考え、当初の作戦が破綻したことを討伐隊全体に共有して、撤退の準備を進めていた時———とてつもない熱源が、広範囲に渡り討伐隊を襲う。


 その出所は、〝ケルベロスの口〟だった、広範囲に渡る〝炎のブレス〟———それは三つの首、全てから放たれていた。

 

 遠くで後衛を務めていた者達までも被害に遭い、奇跡的に生還できたのは、僅か3人だけであった。


 不幸中の幸いは、ケルベロスは一定の距離以上、その場から離れないという習性があった為、なんとか3人は逃げ仰せて、ケルベロスの情報を『サフムーン』まで持ち帰ることができた。


 隊が全滅していた場合、これらの貴重な情報———もとい、戦果が無かったと考えると恐ろしい。


 以上の状況を踏まえ、ケルベロス討伐作戦は暫くの間、停滞する。


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