遠離の森⑧
「私の所有する情報を開示しましたが、貴方の知り得る〝ハーキュリー・クトグア〟の情報を教えていただけますか?」
これは、事前に取り交わされた交換条件。
頭部の無い遺体の存在する場所に、到着するまで道中でクラヌキが発見した〝三つの頭蓋骨〟、これを提示する事により、カナリス陣営はカルサの知る〝銀星ハーキュリー・クトグア〟の秘密を知ることができる。
この場に居る全員で、〝誓約書〟を結んでいる状況で『今』情報を開示しなかった場合、過去のカルサの発言は〝虚偽の言動〟に該当するが、その場合は〝虚偽の言動〟による〝ペナルティ〟は発生するのだろうか?
もしくは、〝現在の行動〟により〝過去の言動〟が〝虚偽の言動〟に変わった場合〝ペナルティ〟は発生しないのだろうか?
カルサは、ペナルティが発生しない事を事前に知っていて、敢えて私に先に情報を開示させた可能性もあり得る。
元々、誓約書は〝法木天〟側のサペールが製作している———ということは、こういう状況に何度も直面しているとも取れる。
ならば、〝後者〟である可能性が高いだろう。
いずれにせよ、私の問いに対するカルサのリアクションに注視しなければならない。
その答えを、直ぐにクラヌキは知る事になる。
「そう焦るな。言われなくても、きちんと話すに決まっているだろう。『約束は守る』だろ?」
クラヌキの読みは外れて、カルサはあっさりと、そう答える。
「ハーキュリー・クトグアの能力は、『炎』だ。———その炎は、奴自身の『燃えない加護』である〝今豪戸〟を貫通する」
「……………ふぇ!?……貫通する…?どういうことですう?」
「それは、つまり………」
チギは、カルサの言葉を理解できていない様子だが、ワルドは遺体を見つめながら、思考を落として考え込んでいる。
「やはり、そうでしたか………」
クラヌキは、その言葉を想定していたのか、あまり驚いた様子を見せないでいた。
「ああ、もう…カルサ!!………私は知りませんからねっ!」
サペールは、頭を抱えて目を瞑っている。考え込んでいるワルドとは正反対で、何も考えたく無いといった感情だろう。
「〝今豪戸〟は、基本的に炎を掻き消す加護だが、〝例外〟は存在する。それは、加護を保有する者、自身の〝能力〟だ。不幸な事に、ハーキュリー・クトグアは〝今豪戸〟を持って産まれたのと同時に、奴自身の適正である〝炎系統の能力〟も付属してきた」
「つまり、〝今豪戸〟は『外敵からの炎を掻き消す』加護……ということでしょうか?」
ワルドは遺体から、カルサに視線を変え尋ねる。
「ああ、説明が省けて助かる。私が知る限り、その認識で合っている」
「そ、それは……〝自滅〟したという事ですう…!?」
ハーキュリー・クトグアの同僚である、二人の前にも関わらず、チギは言葉を選ぶことなく、ハッキリと言う。
「……こらっ!!チギ…!!」
ワルドは、やや強い語気でチギを叱りつける。
「気にしなくて大丈夫ですよ!その可能性は、十分に考えられますし、私と……カルサもそうかもしれないと考えてましたし!」
「えっ…?……………ゴホッ…ゴホッ……ごめんなさいですう。」
チギは咳き込みながら謝るが、自身がなぜ叱られたのか理解できていないようだ。
「チギさん、大丈夫ですか?それにしても……この〝煙〟一向に無くなりませんね。…………しかも、魔力を帯びていて人体的に対してもよくない……」
遠離の森での〝魔力を帯びた煙〟がチギの思考を鈍らせているのか———はたまた、これはチギの通常運転なのか定かでは無いが、この状況下で〝この場所〟に長居するのは得策とは言い難い。
遠離の森で火災が発生して、消火活動が行われ時間がある程度経過したが、〝魔力を帯びた煙〟———その影響力は低下する気配を全く見せないでいた。




