銀メッキ②
なんとしても———逃げなければ。
これは、命懸けの逃走。小国密集地帯の地面を踏みしめる度に感じる。
俺は生きている。それ故に恐ろしい、この命が失われることが。
後ろを振り返れば、数メートルの距離まで敵が迫って来ているのではないか?
正体不明の攻撃方法で、シェインの左腕を切断した様に、俺の身体を切断するために標準を定めているではないか?
その不安を払拭するために、少しでも速く、遠くへと突き進む。
「ラプト、もう大丈夫みたい…………って、ちょっと!ラプト!!」
その声は、ラプトムルランには届いていなかった。
ミダの後ろを着いて来ていたラプトムルランだが、速度を緩めたミダを追い抜いてしまう。
「もう、大丈夫だって!!止まれーーー!!!」
ミダは慌ててラプトの腰を両手で掴み、無理矢理動きを制止させる。
急ブレーキを踏んだかのように、二人の身体は小国密集地帯の大地を土煙を上げながら緩やかに減速する。
「やっと止まった……ラプト、人の話を聞きなさい!」
ミダは軽く拳を握り、ラプトの頭にコツン、と小突いた。
「…………ごめん、走るのに必死だった」
「まぁ、そうだよね……先生なら、絶対大丈夫だよ」
俺は、この言葉を強がりだと思ったが、ミダの瞳を見ると信念という名の光が宿っているように感じた。
恐らくだが、ミダは心の底から「シェイン・テリーズなら大丈夫」だと、信じているのだろう。
「クヨクヨしてても何も始まらないからね!まずは、一旦立て直さなきゃ……」
そう言うと周辺を見渡して、何かを探しているようだ。
「なにを探しているんだ…?」
「まぁまぁ、ちょっと待ってよ……………あった!とりあえず、あそこに行こう」
ミダは、少し離れた廃墟を指差して俺の顔を覗いて来る。
「……あの建物…?」
若干の戸惑いがあったので、ミダに確認してみる。
「うん、そうだよ」
どうやら、間違いないようだ。ひらけた場所に居るよりも、少しでも遮蔽物がある方が安全だろうが………本当にあんな建物に身を隠すのだろうか?
「………わかった」
ミダが指差した廃墟の近くまで来たが、その廃墟の外見についてだが、ここは小国密集地帯なので、やはり茶色の建物だ。しかも、建物の壁に触れたら、ボロボロと崩れそうなくらい壁面は凸凹だ。しかも近くで見ると、ところどころ小さな穴が空いている。
室内を覗くと廃墟故に埃っぽいが、だいたい4人家族が十分に暮らせるくらいの広さだ。
「かなり埃っぽいねー。このサイズだと建物ごと囲えるね」
そう言い、室内の中心に行くと魔力を込めた指で、何やら結界術のような印を床に描き始めた。
「それって……結界を張っているの?シェインが使ってた……〝術〟みたいなもの?」
「そうだよ。先生の術とは少し違し、この術には制限があるけど、一時的に建物ごと隠蔽できるよ」
シェインが使っていた〝認識阻害の術〟に似たものだろうか。
それから数分経ち、結界を張り終えた様子のミダが口を開く。
「まずは、回復しようか。私もラプトも体力、魔力面で大きく消耗したから……これ、飲んで。時間をかけて、瞬間的に消耗した魔力を補ってくれるから」
ミダはおもむろに自身のバッグから、赤い液体の入った小瓶を渡してくる。
「…………飲めば…いいんだよね?」
俺が視線を合わせると、ミダは俺より先に赤い液体を飲み、こちらを見て軽く頷いた。
その姿を見て、俺も赤い液体を一気に口に入れる。
液量自体は少量だが、飲み込むのに少し勇気がいる……ゴクン、………飲み込んだが何も起きない……そう思ったが、ほんの少しだが移動中に消費した魔力が体内で生成されていくのが分かる。
赤い液体を通して、体内へと魔力を新たに生成されていく、と言うより、消費した魔力の破片が再度構築されて元に戻っていく感覚だ。
とても不思議な現象だ。まるで、時を巻き戻しているかのようだ。
「これから、私たちは体勢を立て直して先生と合流しなければならないんだけど………その前に、私たちを襲って来た連中について話すね」
どうやら、回復中の時間に話しておきたいことがあるようだ。俺も気になる事があるから、タイミングを見て聞いてみようか。
「私たちが対峙した連中だけど、総称……みたいなものがあって、〝レプリカ〟って言うんだよね。別名、〝銀メッキ〟とも言うよ」




