旅の帰路⑧
最初に〝それ〟に気付いたのはシェインだった。
そして、シェインの僅かな挙動の変化を見て、次にミダが異変に気付く。
***
「なにか……あったの?」
いつまでも、徒歩で移動している事に違和感を覚えて、小さな声で二人に尋ねる。
それに、気になる事がある。シェインは〝認識阻害の術〟を使用していない様子だ。つまり———なにか異常事態が発生している可能性が高い。
「聴覚は大丈夫そうです。依然として見られていますが………」
口を開いたのはミダだったが、その言葉は俺ではなくシェインへと向けられていた。
「報告ご苦労じゃ。ラプト、儂らの後方から視線を向けている者が一人おるんじゃ。このまま能力を使ってしまっては、100メートル以上離れとる。即ち、術の範囲外じゃから〝認識阻害〟を使っても意味がないのじゃ」
尾行されてるだと!?まさか———追ってが来たのか!?
「もしかして……バトメから俺を追って来たんじゃないのか?」
動揺を隠しきれない。昨日の出来事がフラッシュバックして身体が硬直して、その場に立ち止まってしまう。
「……ラプト…!!落ち着いて!そうと来まったわけじゃないから」
ミダは俺の鎖骨の前に手を回して、力強く抱き寄せるように、後ろから抱擁する。
ミダの温かさが伝わり、身体の硬直が和らいでいく。
三人で手を繋いで〝ネスト〟を超える時も感じたが、人の〝ぬくもり〟が与える感情は、時に言葉や理論では言い表わせない現象を起こす。
元の状態とまでは、いかないまでも先程までの身体の硬直が嘘のように無くなっていくのを感じる。
そして俺は再び前方を行く、シェインの背中を追うように歩みを進める。
「この調子じゃと〝スーナテボ〟まで着いてきそうじゃのう。どこかで撒きたいが、ここら辺の地理に詳しくないから……どうしたものかのう」
「私個人の意見ですが……不安要素は排除すべきだと思います。先生の〝認識阻害の術〟使用後、術の範囲100メートル圏内まで、いっきに接近して不意打ちを決めれば、一方的に制圧できるかと」
逆転の発想だ。術の効果が適用される距離まで近づいて、敵がこちらを認識できない状態になってから交戦する。理にかなっているように感じる。
「相手の能力や目的が不明な以上、接近したくないのう。じゃが、このまま徒歩で移動しとったら〝キーレンス〟まで行けんから、通常通り身体強化をしてネストまで走ろうかのう」
「先生…!?尾行されてるのに、このまま行くんですか!?」
「うむ。〝認識阻害の術〟を掛けるから、二人とも身体強化をするのじゃ。」
もう、シェインはその気だ。確かにこのまま徒歩で移動すると小国密集地帯を通過して〝キーレンス〟まで行くことは不可能だ。
「もしもの話だけど……術の発動中に、効果範囲内から俺が離れて、その後にシェインの近く……効果範囲の半径100メートル以内に戻れたら、俺はどうなる?」
「その場合、〝認識阻害の術〟が再度発動してラプトの存在は、儂とミダ以外は認識するのが難しくなるのう」
再度能力が掛かるのか、それなら逸れてしまっても、なんとかしてシェインと合流すれば問題無い。
「最悪、離れてしまっても先生の近くに行けば大丈夫だからね」
口調は優しいが、ミダからは緊迫した空気が流れていた。
「おほん!まず、前提として二人とも、儂の半径100メートル以内から離れんように頼むのう」
「うん、もちろん…!!もしも、走り始めてシェインから離れてしまったら、どうなるかを知りたかっただけだから。極力離れないようにするから安心して」
それに、身体強化で走って行けば、俺たちの速さに着いて来れなくて、もしかしたら尾行者を撒けるかもしれない。
「わかりました。でも、着いて来ている〝あれ〟が〝認識阻害の術〟の範囲内に侵入したら、私は真っ先に迎撃します」
「それは危険じゃから許可できんのう。それに、この距離の取り方から見て、後ろの〝奴〟は恐らく儂の術を、他にも知っているように思えてならん。なので、接敵は許可できん」
ミダはこの時、シェインの問いかけに対して返答しなかった。




