旅の帰路⑦
瞼を開けているのか、閉じているのか分からない程に、この空間全てが真っ白だ。
いや、試しに瞼を閉じてみると、世界は黒に染まる。
俺の認識そのものが、真っ白だと感じるという事は、俺は目を開けていた、という事になる。
だんだんと白い世界が晴れて、茶色い風景がぼやけたように視界に入る。
どうやら小国密集地帯の国境越え———〝ネスト〟を通過し終わったのだろう。
「……ト!ラプト!大丈夫!?」
意識が揺らいで呆然としていたのか、ネストを超えた国境線付近で、立ち止まっていた俺を心配そうにミダが声をかける。
「うん……少しぼーっとしてた。なんともないよ」
「少しお腹が空いておったら、なにか食べてみるかのう?ネストの近くじゃから休憩できるスペースもあるようじゃ」
その提案に乗り、俺たちはネストから10メートル程離れた木の影まで移動して、そこに腰を下ろした。
するとシェインは自らのバッグから、おもむろに携行食を2つ取り出した。
これは、カナリスの道中でも口にしたものだ。この四角い棒状の携行食は、パンのような小麦の味がする。
「儂はまだ腹が減っとらんから後にするが、若い二人はそろそろお腹が空いたんじゃないかのう?」
シェインは取り出した携行食を、俺とミダへ一つずつ差し出す。
「先生!いただきます!ここから先は更に走るし、ラプトも今のうちに食べといたら?」
「……ありがとう。俺もいただこうかな。」
差し出されたそれを俺とミダは受け取り、包装紙を破り口に運ぶ。
携行食の味は悪くないが、淡白すぎて物足りない。ジャムやバターがあれば、もっと美味しく食べられるのに……。
二人は食に対して関心がないのだろうか?転移魔道具があるとはいえ、それはあくまで〝帰り〟の話だ。
行きは、転移魔道具は使えないと想定すると、そこそこ長い旅路だったのでは?と想像してしまう。
「よーし。食べ終わったし、移動を再開しましょうか!」
俺が食べ終わったのを見て、ミダが立ち上がり両腕を自らの頭上に、思いっきり伸ばす。腰や背中を仰け反らせる格好だ。
「うむ。ラプトも大丈夫かのう?」
シェインは、まだ心配そうな目をしている。
「食べたら元気になった!二人ともありがとう」
空元気だが、これからもネスト超えがあるので、心配させたくない。そんな思いから、少し大袈裟に振る舞う。
「じゃ、移動陣形は〝カーテボ〟の時と一緒だからね」
「先頭からシェイン、俺、ミダの順だよね?」
間違いがないように、一応確認する。
「そうじゃ、その陣形がもっとも安全じゃからのう。術はここから少し離れて、人目が少なくなったら、使用するから儂に任せるのじゃ」
シェインの〝認識阻害の術〟は強力だが、半径100メートル内の者にのみ作用する。
逆の捉え方をすれば、〝半径100メートル外から視認されている〟場合は、能力を使用していても、範囲外なので〝その者〟に対して認識阻害の効果を発揮しない、という事になる。
俺達が〝サルテボ〟で遭遇する『そいつ』は、この能力の仕組みを知っていた。




