旅の帰路⑥
先頭はシェイン、殿はミダ、二人の間に俺が挟まれる形で移動している。
それにしても、カナリスの国境付近でも感じたが、全体的に〝茶色い〟移動中に目の端で建築物を捉えるが、どれも茶色い。
「どれだけ走っても、景色が変わらない気がするんだけど……気のせいだよね?」
しかも、地面も見渡す限りどこまでも土なので、この光景を見慣れていない俺は、この景色に酔ってしまいそうになる。
「ちゃんと進んでるよ!私も〝デカード〟は毎回混乱するけど、そのうち慣れてくると思うから安心して!」
後ろからミダの声が聞こえてきた。
今はまだ慣れてないけど、その言葉を信じてみる。
「……ありがとう、ミダ」
「なにか言ったーー?」
必死で走っている状況も重なり、呟いた俺の声はミダの耳へは届かなかった。
「なんでもないー!!」
もう一度、言い直すのは恥ずかしかったので、咄嗟に誤魔化してしまう。
お礼はちゃんと言いたかったけど、聞こえなかったにせよ、一度言ったからいいだろう。
なにせ、相手はミダなのだから。
「白い線が見えたのう。国境まであと少しじゃ!二人とも、このまま真っ直ぐじゃよ」
シェインが俺たちに〝ネスト〟までもうすぐだと、伝える。
俺の位置からは、〝白線〟は見えない。
三人の距離は、さほど離れていないにも関わらず、シェインは見えたということか?
もしそうなら、シェインは〝身体強化〟を行いながら〝認識阻害の術〟を使用して、身体強化で視力を上げているということか?
それとも、もともと視力がずば抜けて良いのか?いや、俺も目はいい方だが全く見えなかった。
つまり、身体強化で脚力を高めるのとは別で、視力も上げていることになる。
シェインは、いったい幾つの術を同時に使用する事が出来るんだろう?
ミダに関しても身体強化で移動しながら、当然のように索敵を行なっている……気がする。
この二人が異常なのか、大人はこれくらい出来るものなのだろうか?
「あっ!見えた……」
考えごとをしているうちに、俺にも国境の白線———〝ネスト〟を目視できる距離まで接近した。
「ここからは、認識阻害を解くから近づいたら徒歩で移動しようかのう。」
「了解です!」
「えっ!?解いていいの?」
困惑する。ここまで順調に来ていたし、俺はまだ走れるのだが。
「小国密集地帯の国境越えは、普通に通過するしかないからね!まぁ〝見れば分かる〟から」
見ればわかる、ね。認識阻害を解くという事は、それそのものが効果を発揮しないということか?
俺は気持ち早歩きで、国境線へと歩みを進める〝ネスト〟を間近で目視する———それは、誰が見ても〝白い〟と感じるほどに、明らかに真っ白で輝いている。
小国密集地帯は、全体が茶色の〝土〟のイメージが強く残る印象だが、そんな中で国境線である〝ネスト〟は茶色の背景に写る白は、さながら〝蜘蛛の巣〟を連想させるものだった。
だがしかし、間近で見る〝ネスト〟は———〝白い光〟だ。
白い地面が発光している。
発光している地面の手前に十数人ほど人がいて、白線を超えた向こう側にも人だかりがある。
そして、白線〝ネスト〟に、足を踏み入れる人物がいる。
その人物の足から白い光に覆われていき、やがて頭まで到達すると全身が光に包まれて———光の塊となった全身が霧散した。
今、目撃した現象とは反対に、ネストから一人でに〝光の粒〟が集まり人の形を成した後、光の集合体となった人型から光が霧散していく。
これは、先ほど目撃した現象とは正反対の状況だ。
〝ネスト〟から次々と人が出入りしている…?
そうか!〝カーテボ〟から〝サルテボ〟へ渡る人が居るのと同時に、逆に〝サルテボ〟から〝カーテボ〟へ来る人も存在する。
「ねぇ……あれ、大丈夫なの?出てくる人とタイミング悪くぶつかったりしない?」
人々が時間差で、次々と出入りしている光景を目の当たりにして
「光の集まるタイミングを見れば大丈夫じゃよ。初めは怖いかもしれんが、転移魔道具と同じで転移中も慣れれば、なんともないと思うのじゃ」
確かに。タイミングさえ見れば、シェインの言うように大丈夫かも。
それに転移中も転移魔道具と同じ感覚だと思い込めば、そこまで不安にならなくていいかもしれない。
「不安なら、手を繋いであげようか?」
〝ネスト〟まで移動中のミダとは違い、俺に視線を送り半笑いの表情で、今度は茶化すような態度だ。
「お言葉に甘えて、繋いでもらおうかな」
ミダの態度に対して、こちらもふざけた返答をしてみる。
「えっ…!!?ほんとに??」
予想外の言葉に、ミダは取り乱した様子だ。いつもの仕返しだ!ざまあーみろ!
「まあ、そんなわけないよねー。恥ずかしがり屋のラプトにそんな勇気ないもんね。」
俺のしたり顔を見て、動揺したことを隠すように平静を装う。
「そろそろ、〝サルテボ〟へ転移するのじゃ。さっき、ミダが言っておったように、ラプトは〝ネスト〟を超えるのは初めてじゃから、ラプトを真ん中にして三人で手を繋いで渡ろうかのう」
「………え!?」
「先生……それはちょっと…」
俺とミダは一瞬、目が合い気まずくなる。
そんな俺たち二人の様子を、シェインは気にする様子は微塵も無く、俺の右手を繋いで笑顔で微笑んでる。
ミダも、この空気を読んだのか俺の左手をぎこちない仕草で手を掴み、それに応えるように俺もミダの手を握り返した。
「仲良く〝サルテボ〟へレッツゴーじゃ!」
シェインは妙にテンションが高かった。三人で手を繋いだ事が余程嬉しかったのだろうか。
手を繋いだ時は、少し恥ずかしい気持ちが勝っていたが、今は二人の温度が手を介して伝わる。
この温かさは言葉では表現できない。二人の手から感じる〝これ〟の存在が、俺の中で家族の温かさを思い出させる。
〝これ〟を懐かしく思うのは、俺の心がもう叶う事のないであろう家族の存在を欲しているのだろうか。
いや、ロイと再開できれば再び思い出すのだろうか。
俺たちは歩みを進めて、〝カーテボ〟北西の国境線———〝ネスト〟を超えた。




