旅の帰路⑤
転移する際は暗闇に包まれる。これまでの転移では、昨日の出来事があり興奮状態だったので気にならなかったが、二人と話をして少しリラックスしたせいか、かなり眠たい………このままグッスリ寝てしまいたい。
そんな俺の眠気を覚ますように、誰かの話し声が聞こえる。
聞いたことない声だ———少し騒がしいな。
暗闇に光が差し、もうすぐ転移が終わる。
ここから先は、小国密集地帯の一国〝カーテボ〟だ。
キーレンスに入るまでは、基本走り続ける?そうだ、それも小国密集地帯を抜けるまでは———俺は覚悟を決めて、両の瞼を開ける。
真っ先に目に入ったのは、シェイン・テリーズの背中だった。次に目にするのは、血を流して横たわる影が一つ。
それは、腕が長く足の短く上半身が屈強な獣だ。その姿は熊と猿を混ぜたような格好をしている。
近くに人の姿が四つ、その獣を囲むように談笑をしているようだ。
「早く毛皮を剥げよ。さっきも言ったが、戦利品は山分けでいい。だが、貢献度から見てお前らはコイツの解体をしろ」
腰に剣を携える目つきの悪い男は、目の前に横たわる獣をコツンと軽く蹴り、鋭く睨みつけ要求する。
「そんなの事前に聞いてない!4人で解体して」
「まあまあ、1番活躍したのは彼なんだし、そこは……ねぇ、いいんじゃない?」
青年は強気な態度を見せる女性を、なだめている……と言うより、荒事にしたくない様子だ。
残りの一人は、頭巾を被っており顔は見えないが、女性ではないだろうか?かなり小柄な人物で、無言で明後日の方角を見ている。
「草むらに隠しておったんじゃが、不幸な事に先客がおったのう。しかし、なんとか間に合った」
シェインは、ほっとした様子で呟いた。
「この距離で気づかれてないのって、何かしたんだよね?」
何を隠そう。俺たちは今、目の前で揉めている連中のおよそ五メートル程離れた距離に居る。
「先生の認識阻害の魔術だよ。それは———目と耳を欺く術。普通に話しても大丈夫だけど、人が近くに居ると自然と小声で喋っちゃうよね」
そう説明するミダの声も、小声であった。
「これには欠点があってのう、儂を中心とした半径100メートル内の〝能力で許可した者〟にのみ作用するんじゃ。それ故に、範囲外から視認されて遠距離から強襲されれば、能力が意味をなさない……だが、範囲外から視認されて強襲しようと、近くまで来てくれれば撒くことは可能なんじゃがのう」
能力の範囲が半径100メートルは、十分過ぎるように感じる。
それに、最悪範囲外から見つかっても、こっちから接近して相手を無理矢理、能力の範囲内に入れて潜伏する事も可能だ。
「小国密集地帯を抜けるまで、先生は術を使い続けるから、すぐにでも移動しよう。ここから真っ直ぐ北西に進むするから、道は先生が先導するから、何も考えないでいいからね」
いつもより冷静な口調で、俺に語りかける。その語り口からカナリスの道中とは違い、小国密集地帯からキーレンスへの横断は危険な匂いがした。
「真っ直ぐ〝北西〟って……〝北上〟じゃないの?」
「うん、北西に進むよ。カナリスの国境付近でラプトも見たよね、小国密集地帯に張り巡らされている〝白い線で区切られた国境線〟———それを〝ネスト〟って呼ぶんだけど、ネストを超えた先は
私達はカーテボの〝北西にあるネスト〟を超える必要があるんだよ」
真っ直ぐ北上すれば、おそらく最短ルートで〝キーレンス〟に行けるはず。だが、わざわざ北西の国境線を超える理由があるということか。
「加えて説明すると〝ネスト〟は、『〝どこ〟と〝どこ〟』の国が面している〝ネスト〟を超えるかで、繋がっている先の国が違うのじゃ」
「さっきから使ってる、転移魔道具みたいなものか」
よくよく考えれば分かることだ。身体強化を使用したとしても、1日で小国密集地帯を横断する事はかなり難しいだろう。
それに、転移魔道具は〝スーナテボ〟から〝キーレンス〟まで使えない———ん?という事は………もしかして。
「転移魔道具を使う時って、国境を超える為に使ってる?」
これまで、カナリス国内での転移を除くと、ほぼ国境を超える目的で、転移魔道具を使用している気がする。
「単純なショートカットもあるけど、大まかな目的はそうだよ!特に国境を何度も越えると、その都度検閲があるから、もしも行きで〝精霊〟を捕まえられたら、よくて国境で足止め。最悪、没収されるかもしれないからね」
行きは大丈夫だが、帰りは国境を通過しなくていいように、転移魔道具を使っているのか。
「話はそれくらいにして、そろそろ移動せんと日が暮れるのう」
「そうですよ!ラプトの話は長いから、ここら辺で切り上げましょ!」
俺のせいにしやがった!?
無言でミダを睨みつけるが、ニヤニヤして目を合わせてこない。
そのまま、誰も話すことなく三人とも身体強化をした後、〝カーテボ〟の北西へと歩みを進める。
ちょっとだけ、気まずい雰囲気だ。




