旅の帰路④
俺たちは、ミダが指差した〝石〟の地点まで到着した。
進路方向を見渡すと、ここから先は下り坂となっており下り坂の先からは、だだっ広い平野となっている。
さらに坂の終わりから、数キロ先にはカナリスと小国密集地帯の領土の境目であろう地点に、そこそこ大きな小屋が二つ間隔を空けて並んでいた。
「あんまりジロジロ見ると、国境警備隊にバレるよ」
小屋の周辺には、国境警備隊らしき人物が4名確認できる。4人は、それぞれ東西南北の方角を監視しているようだった。
「あの4人のこと?認識をボカす魔術とか使わないの?」
「はぁ……これだから世間知らずは。むしろ、魔力を使った方がバレるよ」
ミダは、やれやれと両の手の平を空に向け、首を左右に小刻みに揺らして、露骨に呆れた態度を見せる。
「世間知らずで悪かったな……!!」
「そんなに怒んないでよー。それに、さっきの嘘だから。この距離で目視でバレることは、まず無いから安心して」
は…はあ!?コイツ正気か?俺のことを、どこまでおちょくれば気が済むんだ?
今の出来事は一旦忘れよう。精神的に良くない、イライラしてしまう。
そんな事よりも、俺の視線を釘付けにしたものがある。それは、カナリスの国境から先の風景———小国密集地帯の存在だ。
これまでの人生で、家や鍛錬場のある林など、変わり映えしない景色の中で俺は生きてきた。
バトメを出て、最初に訪れた国であるカナリスでは、人が通れる道筋は定まっており、景色といえば道端には草木が生えていて、俺の生まれ育った土地とあまり変わらない景色だった。
だが、こうして今から向かう国、小国密集地帯を見ると家屋や城らしきものは、その殆どが茶色の塗装が施されている様で、見れば見るほど不思議な光景だ。
俺の中で家といえば、木かレンガで造られている印象故に、見慣れていないせいか、これから向かう小国密集地帯に対して、とても謎めいた存在に感じた。
この場所から、小国密集地帯全体を見て理解する。
小国密集地帯が何故、小国密集地帯と呼ばれるのかが、俺には分かった。
最初に見た時は、全体的に茶色い印象が強く、小さな国が密集している〝土地〟と言われなければ、一つの国として認識しても、おかしくない程に一体感がある。
それ故にとても淡白で、それぞれの国に特徴が無く無個性だ。
だが、しかし———目を凝らしてよーく見ると、地面に白い線が薄っすらと浮かんでいるのが分かる。
その白線は蜘蛛の巣のように、張り巡らされている。
国境付近とはいえ、この距離から視認できる程の白線なので、その土地に行き間近で見れば、よりはっきりとした物に感じるはず。
おそらく———この白線が小国同士の国境だろう。
「ねえ、小国密集地帯に薄っすらと見える白線が、それぞれの国の国境みたいなもの?」
一応、確認のためシェインに尋ねる。
「そうだよ!ラプトにしては冴えてるね」
シェインに聞いたのに、先に答えたのはミダだった………お前には聞いていない。
「おっほほ、そうじゃよ。ここからでも朧げに見えるのう。」
やはり、これが国境という括りになるのか。この〝白線〟は〝なに〟で構成されているんだ?
———俺の中で疑問が生じる。そもそも、小国同士で領土の奪い合いがあった場合、国境である〝白線〟は簡単に消えてはならないものだ。
だが、他の国の領土を奪ったら、自国と奪った国の境界となる〝白線〟は消せるのか?
それとも、消す必要が無いのか?部外者である俺からすれば、どこもかしこも似たり寄ったりで見分けがつかないが、現地の人からすれば、その地で生活を行っている事から土地勘があり、自国と他国の境界線がハッキリしているのだろうか?
「よーし、やるか!ラプト、この石を横にずらすから手伝って」
小国密集地帯の〝白線〟について思考を落としていると、ミダが俺に協力を求めてきた。
「魔力で身体を強化すれば、1人で余裕だろ……まあ、手伝うけど」
俺は忘れない、森での出来事を———魔力で強化した俺の身体能力より、魔力強化を行ったミダの方が身体能力は俺より高いように感じる。
「ああ、そうか。そういえばラプトは知らなかったか〜〜」
「さっきまで、話すのに夢中で儂も忘れておったのう」
ミダとシェインが目を合わせ、その後二人とも額に手を当て、顔を伏せて同じポーズを取っている。『やってしまった』といったような……残念がっている?格好だ。
「え〜とね。小国密集地帯では、基本的に走って移動するから。カナリスから、ここまでは魔力を温存してたの。それにラプトの魔力も、かなり回復しているみたいだし……もしも、走っててしんどくなったら……私がおんぶするから、いつでも言って!」
おんぶは絶対にされたくないので、死ぬ気で走るが、それよりも………。
「なんで、俺の魔力が回復しているって言えるんだ?」
俺の魔力が回復しているというのは事実だ。
通常、怪我を負っていたり魔力自体が枯渇状態の者は、平常時の状態に比べて魔力の回復に異常に時間が掛かる。これは、魔力は大地や空気中にある魔を自らの力へと変換して、〝魔力〟となる。
魔力上限は人それぞれだが、意識付けて許容されている上限まで、自身の魔力量を回復させる術も存在するが、基本的には食べる。寝る。と言ったものが自然回復と呼ばれ、主な使用した魔力の回復方法であると言える。
「そんなの〝私〟だからに決まってるじゃん!」
また始まった……相手にするのが、めんどくさくなってきた。
「そんなに拗ねるなよ〜。ラプトは、魔力探知で周囲に対して索敵するよね?私はそれの応用で、コツはいるんだけど、人体に対して魔力探知を行ってるんだよ」
俺の表情を読んでか、ミダが口を開く。
「人体に対して……可能なのか?」
「それが出来るものは、あまり居らんと思うよ。ミダは魔力探知能力が優秀じゃからのう。それに〝人の体のつくり〟に対しても詳しいからこそ、出来る技術じゃな」
ミダだからこそ出来る術、ということか。
つまりは、ミダが言っていた〝私だから出来る〟という発言はあながち間違いでは無かったようだ。
「そう言うこと!〝私〟だからできるの!わかったら退かすの手伝って」
「…………うん」
俺とミダで息を合わせて〝大きな石〟を横にずらして行くと、魔力の籠った印が見えた。
「よし!これだけ動かせば……取れた!時間も惜しいし、すぐに転移しましょうか」
ミダは石を動かした後、土の下に埋めていた〝2〟と書かれた球体を手に取り、シェインへ語りかける。
「うむ、行こうかのう。」
「ところでさ……今更、言うことじゃないけど転移した先に人が居る可能性って無いの?」
当たり前のことだが、これまでの転移先に人が居たケースはない……寧ろ、転移先は人通りが皆無だった。それが当然だと思っていたが、これから向かう小国密集地帯は明らかに人口密度が高いと思われる。
俺が気付かないだけで、何かしらの対策が立てられていたのだろうか?
「ラプト………なにごとにも〝リスク〟はつきものなんだよ」
「………一応、人通りの少ない場所に〝マーキング〟しとるから……………転移後に人と遭遇する可能性は低いんじゃないかのう……」
なるほど、これまでは偶然出会わなかっただけ……………つまり運次第か。
「じゃ、じゃあ!先生、ラプト、転移するよ!」
「う、うむ!時間にも余裕が無いし行こうかのう」
気まずい空気を察したのか、二人とも口早にそう口にすると、いつも通りの手順で俺たちは小国密集地帯の〝カーテボ〟へ向け転移した。




