遠離の森⑤
「ふっ、何を言うかと思えば、先に質問をするのはお前じゃない、こちらだ。お前はカナリスからここへ来る道中で〝あるもの〟を見つけたんじゃないのか?それを我々に公開すれば、クトグアの加護の例外を教えてやる。どうだ?死んだとは言え〝銀星〟の加護の情報を知れるんだ、お前にとって悪くないだろ?」
カルサにとって、クラヌキから〝加護〟について質問が来る事は想定内。
その為、予め考えていた交換条件を突きつける。ここまでは、カルサの思惑どおりに事が進んでいる。
「ちょ、ちょっと…カルサ、勝手に何を言ってるんですか!?貴方にそんな権限ないでしょう!」
話がどんどんと進んでいく様子を見て、サペールは二人の間に入る。
「………いいでしょう。一つ誤解の無いように、訂正させていただきますが、カナリスからこの場へ至るルートで、発見した隠しているものは一つもありません」
クラヌキはカルサの方へ体を向けて、そう呟くと軽く会釈をした。
「いいだろう。やはり、そう言うことか……今のお前の返答で確信に変わった」
「ふ、二人とも……カルサ、私は止めましたからね!私の忠告を無視して……本国に帰って、どうなっても知りませんからね!!」
両者とも全くもってサペールの話に対して、聞く耳を持たない姿勢だった。
「あっあの!この場に私が居てもよろしいのでしょうか?もしも、居てほしくないのであれば、話が聞こえない場所まで移動します!」
「そうですね。私とチギは、ただの国境警備隊なので、重要な情報は知られない方が…お互いの為にもよろしいかと思います」
「同席したままで構わない。この場にいる5人で検視を行っているから、寧ろ離れない方がいい」
カルサは二人に留まるように促す。これは、サペールの誓約書の効果が薄れることへの危惧。
今回、行使しているサペールの誓約書は、一つの契約への同意を求めて、それに応じた『人数』や『役職』などによって、ルールを破った際に発生するペナルティの効果が決まる。
もしここで、ワルドとチギがこの場から離れ過ぎて誓約書の適用範囲外とみなされれば、誓約書の同意者が5人から3人へと変更される可能性が高い。
そうなれば、クラヌキが虚偽の言動を行った際の誓約書のペナルティ発生時の効果が弱くなってしまう。
「問題ないのであれば、このまま同席したいです!」
「…本当に……いいのですか?」
チギは留まりたい気持ちでいっぱいだったが、ワルドは戸惑っていた。
「二人とも、ここはカルサ殿のお言葉に甘えましょう」
口を開いたのはクラヌキだった。
クラヌキは思案していた、カルサの先ほどの言動〝寧ろ離れない方がいい〟この発言はペナルティが発生していない様子から、虚偽の言動には該当しないと判断できる。
つまり、検視を行なっている5人は検視が終わるまでは、一定の距離感もしくは、同じ空間に居なければならない。ということか?
検視が終わるまでに誰か一人でも欠けたら、能力の使用者か同意者全員に、何らかのペナルティが発生するのか?
おそらく後者であろう。前者の場合、〝誓約書〟同意後に、術者から同意者が誓約書を発動した地点から一定の距離を取るだけで、術者へのペナルティを一方的に突きつける事が出来てしまう。これでは、メリットとデメリットのバランスが取れて無さすぎる。
この推察から後者でほぼ間違いないだろう。ペナルティは同意者全員へと降りかかる可能性が高い———その為、クラヌキはワルドとチギへ留まるように促した。
〝誓約書〟によって“虚偽の言動“ができない、という特異な環境がクラヌキの思考を鈍らせた。




