旅の帰路②
「魔道具のマーキング的にってことは、二人はその道順を通ってバトメまで……厳密には、俺の居た空白地帯の林まで来たってこと?」
ラプトは、二人が小国密集地帯とキーレンスを経由したのか確認を促す。
「うむ、そうじゃよ。儂らは〝精霊〟を探しておったから、それらしいポイントを絞って旅の経路を決めたのじゃ」
「なるほど……つまりガミンダスには、精霊が居そうなポイントは無かったってこと?」
「ううん、そうゆう訳じゃないんだよね……昨今の情勢的に、シュナインミレからガミンダスに渡るのは難しいんだよね。それに、昨日の夜の件もあるからね」
そう語るミダの表情は、かなり険しいものだった。
「昨日の夜の件は、俺のこと…だよね」
「うん。先に言っておくけど、君を責めている訳じゃないよ。ことの経緯を聞いたけど、私があの場で同じ状況に居たら、同じ事をしなかったとも言い切れないから」
「ラプト、儂も君の取った行動は自衛行動と取れる。相手側が一方的すぎたように思うのじゃ」
二人は俺を慰めるように、誰も責めることができない、と言い聞かせるように語る。
「ミダ、シェインありがとう」
心の中で思うだけで無く、この感情は言葉にして二人に伝えたかったので、ラプトは素直に二人へ伝えた。
「で、君と対峙したコートの人物について、なんだけど……おそらく、サンウェナスの〝法木天〟しかも〝銀星〟か〝金星〟だね」
「法木天…?シルバス?ゴルド?ごめん、何が何だか理解できてない」
サンウェナスは知っているが、その後にミダの口から、知らないワードが三つも立て続けに出てきて混乱した。
「ごめん!いきなりすぎたね。サンウェナスに所属している〝法木天〟ていう機関があるんだけど、そこの階級に〝銀星〟と〝金星〟があるの。その下にも階級はあるんだけど、そこは省くね。コートの人物の胸元ら辺に、太陽みたいな形のブローチがあったよね?それは、銀星か金星しか付けていないの」
「それで、その…法木天の銀星か金星の可能性が高いってこと?」
俺は昨夜の記憶を遡った、確かに胸元に太陽に似た特徴的な形の物が付けられていた。
「そう!可能性っていうか、それっぽい仮装をしていない限り、法木天で間違いないと思うよ」
ミダはコートの男が法木天だと、決めつけてしまっている様子だ。
「儂も法木天の可能性が高いと思うのう。それも、銀星な気がするのう。もし、あの身体が金星だったら違和感があるのう」
シェインはコートの男が、銀星である可能性が高いと言う。
『違和感……?』
俺はそのの言葉を頭の中で反芻する。
「まあ、先生がそうおっしゃるなら、銀星で間違いないでしょう!」
また、ミダは決めつけてしまっている。
「知ってたら教えて欲しいけど……銀星と金星って、どう違うの?」
俺は二人に尋ねた。シェインがコートの男を銀星の可能性が高いと判断したと言う事は、銀星と金星で明確に〝なにか〟が違うと言える。
「違いはあるよ、その2つはかなり違うね。まず———」
ミダはそう言いかけた時、シェインは足を止めた。
シェインは、自身の口の前に人差し指を当て、俺とミダを交互に見つめる。
「……ですね」
ミダは俺よりも先に、事態の詳細を掴んでいるようだった。
俺たちの進路方向の先———200メートル以上先に商人と思わしき、馬車がこちらに向かって走っている。
「続きは、アレが通過した後で話すね」
ミダは小さな声で、視線を俺に向けそう呟いた。
『———まただ』
二人と行動を共にしていて、気づいたことがある。
この二人———索敵能力が卓越している。
俺が、〝それ〟に気づいたのは転移後の移動中だ。
※※※
二人に流されるような形で、二人の家まで同行する事になったが、あんな惨状を目の当たりにした後で、コートの男の仲間が追って来ていないか、何処かで待ち伏せていないかを俺は警戒していた。
そんなことを考えていた矢先、進路方向に動く気配を感じ取る。
〝それ〟は僅かに動いている、生物で間違いない。
人間か?野生動物か?一瞬思考したが、考えるよりも先に二人に伝えるのが先だと思い、俺は足を止め、二人に感じ取った気配の存在を伝えようとした瞬間———。
「あれは、鹿だよ。このまま進んでも大丈夫」
それはミダの声だった。
直後に前方の茂みから、雄々しい角を携えた鹿が我々の進路方向を横切った。
「えっ……」
俺は思わず声を漏らした。
何故、気配の正体が「鹿」だと分かった?疑問が浮かぶ俺の表情を見て、シェイン・テリーズが口を開く。
「儂らに教えてくれようとしたのかのぅ?」
「ああ、そうだよ。でも気配の正体が〝鹿〟だという事までは分からなかった。シェインもあれが鹿だって分かったのか?」
「まぁ、旅をすれば自ずと警戒心が強くなるからのぅ。厄介ごとを回避するにも事前に知っておくに越した事は無いのじゃ、おっほっほ!」
シェインは声高らかに笑い出した。
※※※
当時の出来事を思い返していると、気付いたら馬車は10メートルほど先まで来ており、俺たちの横を何事もなく通り過ぎていった。




