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遠離の森④


 「まぁ状況からして、その可能性は高かったが……よりにもよって、クトグアか……これはかなり厄介な事件になるな。サペール、もう一度確認するが間違いないか?」

 クトグアと同じ〝法木天〟に所属する二人の表情は曇っていた。


 「ええ、遺体の腐敗は進んでいますが、身体にはまだクトグア氏の加護〝今豪戸イゴウド〟を確認できたので、クトグア氏で間違いないかと。まさか〝銀星シルバス〟の中でも相当な手練れであるクトグア氏が殺害されるとは……」


 「そうか…一応、確認するか」

 カルサはそう呟くと、自身のコートのポケットからライターを取り出した。カルサ自身、タバコの類は吸わないが、緊急事の際に火元があった方が何かと便利だという考えから、常にライターを持ち歩いている。


 「確かに、加護がまだ生きていれば“それ“が1番の本人確認になりますね……」

 加護が完全に消え去る前にできる確認方法を、サペールとカルサは知っていた。


 カチャッ……カチッ、カチッ、ボッ。

 カルサはライターに火を着けて、ライターをゆっくりと遺体に近づけた。

 「……なっ!?…なにをしてるのですか!!」

 ワルドは思わず大きな声を出し、カルサを制止しようと動くが、サペールに止められる。

 「ワルドさん、少しお待ちください。これは大事な確認作業なので」

 「確認作業…!?……遺体の処理もカナリスとバトメどっちでやるか、話し合わなければならないのに……遺体をここで燃やそうとするなんて!そおかしいですよ!!」

 ワルドは反論するが時はすでに遅く、カルサのライターはじりじりと遺体に近づいていた。

 遺体までライターの火は、あと5センチほどの距離だ、4、3、2……ボッ!………シュゥ………


 遺体に触れる2センチ前でライターの火は突然“煙のように消えてなくなった“。


 「やはりな、この遺体はハーキュリー•クトグアで間違い無さそうだな」

 カルサは淡々と答えた。

 「えっ……今…火が消えた……?」

 「マ…マジックみたいですう!?」

 ワルドとチギは目の前で起きた光景にあっけらかんとしていた。


 「これが———〝番犬殺し〟の〝燃えない加護〟ですか、実際にこの目で見たのは初めてですが、死してなお加護は健在ということでしょうか?それとも死んでいない…という可能性もありますか?」

 ワルド、チギとは違いクラヌキは冷静に現状を把握する。


 「いえ、死んでいますよ。人によるのか、死に方によるのかは分かりませんが、稀に死後も加護が身体に残っているケースがあります」

 カルサとは対照的に、クラヌキに対するサペールの対応は丁寧だ。


 「疑うわけではありませんが、私も“確認“をしてもよろしいでしょうか?」

 サペールとカルサへ交互に視線を向け許可を促す。

 「いいだろう、許可する。どうやら私のライターでは不満らしい」

 ライターをポケットにしまい、遺体の前から離れて『ほら、やれよ。』といった感じにクラヌキに視線を送る。


 「ありがとうございます。では…皆さん、少し距離を空けてくれますか?」

 クラヌキを除く4名が遺体から少し離れたことを確認すると、クラヌキは遺体の横へしゃがみ、右の手のひらを遺体から10センチほど離れた場所に留めると、次の瞬間———クラヌキの右の手のひらが青く燃えた。

 「ク…クラヌキさん!?正気ですか!?」

 ワルドは動揺した際に、一瞬だが視線がカルサの方へ向けられた。

 「ほう……」

 このワルドの動揺は、遺体を燃やそうとする行為へ向けられたものではなく、クラヌキの能力をカルサに見られる事への動揺だろうか。

 

 おそらく、クラヌキは先程カルサがライターで行った再現をクラヌキ自身の“能力“でも同じように消えるのか、試したいのだろう。


 徐々にクラヌキの右手が遺体へと近寄る。遺体まで、およそ5センチ…4…3…2…フッ……。

 右の手のひらに灯っていた青い炎は、遺体に触れる直前で消えさった。

 「やはり、能力でさえも打ち消してしまうのですね」

 「あたりまえだろ。お前の能力が〝どういう類の炎〟か知らないが、基本的に火に分類されるものでは、特殊な能力であろうと〝根本的なもの〟が火にカテゴライズされる限りクトグアの加護を破ることはできない」

 ハーキュリー•クトグアの加護は、例外はあれど炎に対しては無敵と言えるものだ。


 「基本的に、ですか……その言い方は〝例外〟はある、というふうに聞こえますが…私の考え過ぎでしょうか?」

 クラヌキの問いに対して、カルサが動じる事はなかった。

 検視が始まり、遺体がハーキュリー•クトグアだと判明した以上、避けては通れない話題。



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