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18話 行先


 男の首を切断したあと、俺は暫く放心状態だったが、近くの木に炎が燃え移り音を立てて崩れている様が目に入り、我を取り戻す。


 どれくらいの時間が経ったのだろう?

 十数秒?それとも数分?周りの炎の燃え移り方から見て数分だろうか。


 俺の周囲は炎で包まれていた、正確には『俺とコートの男の身体』とその周辺以外、燃えていた。


 ———はやく逃げないと。

 そう思った瞬間———俺の前方の炎が蒸発した。


 「は……!?なにが起こった?」


 俺は動揺して、その場に立ち尽くしていると、炎が消えた場所から、二つの人影が迫って来る。


 もしや、ロイと森で遭遇した女か?それとも……コートの男の仲間か!?


 その人影は、一つは170センチほどで、もう一つは150センチ前半くらいだった。


 その影の様相から、人影がロイである可能性が消えた。


 クソっ!!今の俺は立っているのが限界だ。この状態では戦うどころか、逃げるのも至難の業だ。

 それに………俺は血を巡らせるように、全身に意識を向けるが………ダメだ。


 やはり———魔力操作が行えない状態が依然として続いている。

 周囲の魔力はかろうじて知覚できるが、魔力操作ができない……というより〝俺の身体に魔力が存在しない〟ような気がする。

 コートの男から奇妙な攻撃を喰らってから、そんな空っぽの状態が続いている。

 だが、周囲の魔力は感知できるほどに回復?しているから、時間が経てば魔力は戻るのだろうか?


 人によっては、大気中のマナを魔力に変換して取り込む〝特異体質〟も居るが………俺は〝自家発電〟だ。食って寝て、起きたら魔力が回復しているオーソドックスなタイプ。


 一時的に、魔力がゼロになっているだけなら問題ない。

 1日経てば、自身の魔力量の上限値を超えないように、身体が体内で魔力を回復してくれるはず。



 だが、現在は体内の魔力がゼロなので、先のことを考えてもどうしようもない。


 〝今〟どうするべきか———それを考えなくてはいけない。

 魔力で身体を強化できないのであれば、逃げるのは絶望的だ。


 ましてや———相手は〝二人〟。


 「アレッ!?君、森で会った少年!?」


 なにやら、聞き覚えのある声が一つの人影から聞こえてきた。


 この声は———森で遭遇した女!?


 「先生!この子が、私が探索中に遭遇した少年ですよ!」


 「ホッホッホッ!なんという偶然かのぉ」

 もう一人は知らない声、口調は年寄りだが声色は若い印象だ。


 女と———もう一人は誰だ!?


 影が近づいてきて、その人物の姿が露わになる。

 一人はやはり、森で出会った女だ。そしてもう一人は30代半ばくらいの男性だった。


 「君さ、ここで何してるの?」

 周囲が燃え盛る炎の中で、女は平然と尋ねてきた。


 「………っ!!…お前なっ!お前のせいで!!!」

 沸々と怒りが込み上げて来た。もしかしたら、この女のせいで、俺は窮地に立たされていたかもしれない。そんな感情が先走る。


 「わー!?ちょと待って!?落ち着いて!」

 女は俺をなだめようとするが、俺の感情は抑えられない。


 「よくものうのうと!!!人の気も知らないで!!」

 女の方へ歩み寄ろうと近づいた瞬間、女と共にこの場へ来た男性が、俺の両肩を抑えて呟いた。


 「ボロボロじゃのう……君の身に何があったか、知りたいんじゃが教えてくれんかのぉ?」

 男は俺の両肩を抑えているが、その手は力強く抑えるのでは無く、俺が倒れないように支えているような優しさが伝わった。

 

 「焼けた頭が三つに、燃えていない胴体?体が一つ?」

 女はこの光景を見て、不思議そうに呟いた。


 「………!?先生!!あれって……!?」

 「まずいのぉ」

 男が呟いた後、その視線の先におぞましいものを目撃する。


 「何だよ……あれ…」

 俺の家のある方角から、夜空を覆うように黒く大きな物体が迫り来る。


 カラス…いや、鳥の群れか!?

 鳥か何かは判別できないが、俺の目には小さなものが密集して動いている様に見えた。


 ———あんな巨大な物体?群れ?はどこから出現した!?


 速度は緩やかだが俺のいる地点、林の方向に確実に近づいて来ている。


 「お邪魔が入りそうじゃのう……ミダよ、お暇するかのぉ」

 男は女から、数字の書かれた球体を受け取った。


 「少年よ、行く場所がないならついて来るかのぉ?」


 「……………」

 俺が暫く黙っていると、男は続けてこう言う。


 「このまま、ここに残れば悲しい結末を迎える可能性が高いんじゃが…どうする?」


 父と母はもう居ない。ロイの存在が気がかりだったが、安否を確認する術がないなら……俺はどうすればいいんだ?


 「ミダよ、もうそろそろ行くぞ。少年も来たければワシの手を掴みなさい」

 男はこちらへ左手を差し伸べて来た。


 「君さ、行くとこないなら来なよ」


 「そんなこと言ったって、この炎の中でどこへ行くんだよ」

 俺は二人へ疑問を投げかけた。そう———俺たちの周りは炎で包まれている。


 俺は先の出来事から、炎に焼かれない自信があったが、二人がどうやってこの状況を打開するのか———その考えが知りたかった。


 さっき女は、『行くとこないなら来なよ』と言った。この発言から、おそらく……〝なんらかの移動方法〟が二人にはあるのだろう。


 こんな状況で何処へどうやって行くのか。

 「」

 ———常人の思考回路ならば〝何処へも行けない〟となるが、俺は二人の提示する〝移動方法〟が気になって仕方がなかった。


 「心配無用じゃ。そこは任せてほしいのぉ」

 「うん。うん。先生の言うとおり!」


 「クソっ!どうにでもなれっ!!」

 俺は、差し伸べられた男の手を力強く左手で握った。


 こんな状況にも関わらず———俺は知りたかった。


この手を取った先に何があるのか……これから起こるであろう〝未知の出来事〟を知らずにはいられなかった。


 「よし!ミダ、少年、移動するぞぉ!」

 その掛け声とともに、俺は信じられない現象を目の当たりにする。


 俺、女、男の三人の体は〝黒〟で塗りつぶされた。いや、〝黒〟と言うより〝闇〟と言う表現が正しいだろうか。



 数秒後、———その闇が晴れる。



 辺りを見渡すと、違和感を感じる。


 「………!?……ここって…どこ…?」


 月明かりでかろうじて見えるが———暗い。

 しかも…足元を見ると草木が生い茂ってない?砂利のような地面だ。


 それに、地面を確認した際に感じ取ったが———目と鼻の先にある、木の根っこを見ると魔力の残穢が微かに感じられた。


 おかしい……さっきまで周囲の環境は炎に包まれていたはず………。


 そう、ここはまるで———〝俺が訪れたことのない場所〟のように感じた。


 「やっぱり変だ……ここは森じゃない!?」


 「ほっほっほ。ここは森を抜けた先、カナリスじゃよ。」


 「………………?……えっ………はあっ!!?」

 俺は林を飛び越えて、いきなりの森の外に出ていた。


 それも———カナリスの領土に。


 さっきまでいた林とは違い、草木が少なく砂利道の場所———そう、俺たち三人は一瞬にして森の外に移動していた。


 「なんだよ…これ。夢なのか…?」

 しかも、遠目だがカナリスの王都と思われる城壁が、うっすらとだが見えている。


 「ふっふっふ!びっくりするでしょ?」

 「咄嗟じゃったから、説明できなくてすまんのぉ」

 女は何故か自慢げな態度をとっていたが、男は申し訳なさそうに、かしこまっていた。


 「簡潔に言うと、魔道具を使って転移したんじゃ。ざっくり言うと……あらかじめ、この地点にセーブポイントを作っておいて、いざという時、この場所に戻って来れるようにしておいたんじゃよ」


 「どお?すごいでしょ!まぁ、少し強い衝撃や変な握り方をしたら…誤って起動するけど………扱いさえ完璧なら!超便利な魔道具だからね!!」

 男が今さっき起こった状況を説明してくれたが、その裏では、またしても女はドヤ顔だった。


 「だいたい分かったけど…魔道具で転移なんて可能なの……?」


 「可能だよー!ムーエンの魔道具は凄いからね!そこら辺に売ってる物とは違うから!」

 女は自慢したいのか、魔道具の凄さをアピールしてくる。


 「この魔道具は、ある程度の範囲に入らないと起動しないのじゃ。次の転移範囲内まで少し歩くが大丈夫かのう?」


 どうやら、俺の身なりを見て心配してくれているようだ。


 「俺は、まだまだ歩ける」


 「ほっほっ。それはよかった。じゃが、しんどくなったらいつでも言うんじゃよ」


 「しょうがないから、限界が来たら私がおんぶしてあげるから言ってよね!」


 「うん。二人ともありがとう」

 流石におんぶは頼めないけど。二人とも、俺のことを気にかけてくれてる様子だった。


 「それより、自己紹介がまだじゃったのう。移動しながら話でもするかのう。ワシは〝シェイン・テリーズ〟という。好きに呼んでほしいのお」


 「はい!はーい!私は〝ミダ・エゾラム〟呼ぶならミダさんって呼んでいいよ!君、ボロボロだから、安全な場所まで行けたら治療してあげるね!」


 二人が自己紹介をしてくれた。男性の方はシェイン・テリーズ、女の方はミダ・エゾラムというらしい。ここは俺も名乗らなければいけない。


 「俺はラプトムルラン・メラルダ、家族からはラプトって呼ばれてる。年齢は…今日で10歳になる。それと……さっきの〝アレ〟男の遺体とか頭部について説明したい」

 俺は歩きながら、ことの経緯を全て話した。

 二人に軽蔑されるかも知れないが、男の首を切断したことも話した。


 「へー10歳か、まぁ見た目からして年下だよね。お兄さん、どこに行ったんだろうね…」


 「今日で10歳とはのぉ。可哀想に…散々な目に遭ったのう。ラプトムルラン・メラルダ………メラルダ…はて、どこかで……」


 俺の想像とは反して、二人は俺に対して同情しているように見えた。


 ———嫌なやつに見えないのかな、俺のこと。


 少しだが、気持ちが楽になった気がした。


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