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16話 発火


 俺は依然として目を閉じたまま、思考を巡らせる。


 ———誰だ!?


 聞いたことのない声。俺が生まれてから出会った人物の中で、この声の人物は居ない———だが、流れ星の時と同様に、この声に懐かしさを感じてしまう。


 その余韻に浸っていると、疑問に思う。


 俺はなぜ思考している?これは死後の世界なのか?


 男の硬直は既に解けているはず……にも関わらず生きている?男の気まぐれで、まだ処刑していないだけか?


 カランッ…カランッ…


 何か———金属が地面に落ちたような音が響いた。


 その音を聞き、俺の意識は現実に引き返される。


 身体の感覚は………右肩と右腕が意識を向けた途端に痛む。

 死を覚悟していたため、これまでに負った傷に意識が向かなかったが、まだ右肩と右腕の痛みはある  

———どうやら俺はまだ死んでいないようだ。


 俺は、いつ殺されるかも分からない恐怖心の中で、ゆっくりと瞼を開けた。


 真っ先に両の瞳に映ったものは———優しくゆらめく光だった。


 次に気づく、これは光では無く〝炎〟なのだと。


 光の中にあるのは、楕円形の物体が二つ———そう、父と母の頭部が燃えていたのだ。


 「あっ……っ!?」

 それを目の当たりにして、咄嗟に熱いものだと脳が認識したが、身体は違う反応を示した。


 何を隠そう、この〝炎〟は父と母の頭部を燃やしてはいるが、抱きかかえている俺の腕は———燃えていなかった。


 「………なに……これ…………!?」


 不思議だった。物理的に二人の頭部は燃えている。

 だが、抱きかかえていた腕や、二人の頭に擦り合わせるように近づけていた、俺の顔は燃えていない。


 ———何が起こっている!?


 この状況に俺の意識は釘付けになる。どういう原理でいきなり燃えたんだ?発火原因はなんだ?


 疑問が湧き上がり、とどまるところを知らない。


 そんな中、〝炎〟とは別の一つの疑問がポツリと落ちた。


 もしかして……コートの男はこの現象を見て、警戒したがために、俺への攻撃を中止したのか?


 俺はその疑問の答えを、直ぐに知ることになる。


 コートの男が居たであろう位置———後方に視線を送る。


 すると、先程まで、剣を携えていたはずの男は地面をのたうち回っていて、自らの頭を両手で抑えていた。


 なんと、驚くことにその男の頭部は———〝発火〟していた。



 父と母と同じように———頭が燃えている!?



 自らの高なる慟哭を抑えながら、発火している男の現状を凝視していた。

 暫くの間、男の頭部が〝発火〟している様子を見て、とある共通点に気づく。


 男は、燃えている頭を両手で押さえているにも関わらず、その両手は燃えていなかった。これは注視した結果、分かったものだ。

 男がのたうち回っている時、一瞬だが頭から手を離した際に、手が燃えていないことが確認できた。


 これは、俺が直面している状況と同じだった。


 ———燃えるのは頭部のみ!?


 だが、俺の頭は燃えていない。俺以外の———三人の頭が燃えている。


 なぜ———俺だけ燃えていない?


 自分では気づかないだけで、本当は燃えているのか?

 疑問に思い、自らの頭を左手で触り確認する。

 鏡など、自分の姿を確認出来る物が近くに無いので、確信は無かったが触った感触はいつもどおりと言える。


 おそらくだが、俺の頭は燃えていないと言えるのではないだろうか。


 そんな確認をしていると、周囲の変化に気づく。

 三人の頭部からゆらめく———〝炎〟は周りの草木に燃え移っていた。


 だが、不思議なことに、この〝炎〟は俺とコートの男の周辺には燃え移っていなかった。


 まるで生きているような、自ら意思があるようにピンポイントで二人の周りだけ、地面の草が綺麗に残っていた。


 俺は全身、コートの男は頭部以外、燃えないのか!?


 ———もういい!!考えるのはやめだ!!


 疑問は次々に湧いて来るが、今はこの場を立ち去ることが最優先だ。


 コートの男はどのみち、時間の問題だろう。

 ほっとけば死ぬなら、このまま立ち去ろう。



 そう思考して、行動に移そうとした瞬間、脳に響く———『本当にそれでいいのか?』



 この男は、父と母の命を奪ったかもしれない。少なくとも、殺害した張本人では無くても、父と母の亡骸を弄んで戦利品のように持ち歩いていた。


 ———そんな奴が死ぬのを、のうのうと待つだけでいいのか?


 俺の中で抑え込んでいた感情が溢れて来る。


 数秒間、頭部が発火している男を見ていると、その近くに男が振るっていた剣と鞘が目に入る。


 おそらく、先程聞こえて来た金属が地面に落ちるような音の正体は、男が剣を手放して地面に落ちていた鞘と剣が干渉した音だろうか。


 男が手にしていた剣は、俺からしたらやや大振りかも知れないが、十分過ぎるほどに———鋭利だった。


 『アレなら切るのに十分か』


 これは———あってはならない感情だ。

 そう自分に言い聞かせて、押し止まる。だが、直ぐに感情が爆発しそうになる。


 ダメだ……体が動いてしまう。男の方へ、剣の方へと。


 抑え込んで苦しむなら、いっそのこと———自由になればいい。


 のたうち回る男の周囲に落ちていた剣を、俺は左手で掴んだ。

 右手は痛むので両手で掴めない分、想像よりも少し重たい。

 大人用の長身の剣ということもあり、片手で持つには厳しかったかもしれないが、俺の左手は剣の柄を握りしめて離さなかった。


 もう、———覚悟は決まっている。


 いまだに、地面をバタバタと這いずり回る男に視線を送る。


 それにしても……これだけの時間、頭部が燃えていても、まだ動けるのは大したものだ。

 まあ、意識があるのかは不明だが。


 俺は男の身体を見下ろせる位置に移動して、剣を天高く掲げた。

 そして、男の首元に目掛けて渾身の力で———振り下ろした。


 …ザスッ…………コロコロコロ


 俺は、男の首を切断することができた。

 

 これは———意趣返しだ。この男を二人と同じ目に合わせてやった。

 これだけは我慢できなかった。やり返さずにはいられなかった。


 この時、俺の中に〝理性〟という言葉は無かった。


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