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15話 最後の願い



 「処刑する!?ふざけんな!!」


 この男は気が狂っている。これまでに起こった出来事から、男の目的を推理して、話し合いで解決しようと考えていた自分の愚かさを恨んだ。



 「私はふざけてなどいない。君には受け入れ難いかも知れないが、これは決定事項である。」

 

 そう言うと、ハーキュリー・クトグアは腰に帯刀している剣に手を掛けた。まだ剣を抜いていないにも関わらず、男からとてつもない威圧感を感じる。


 次の瞬間、男が滑らかな動作で抜刀した———が、またしてもその場に硬直してしまった。


 同じ剣を抜いている状態でも邂逅した当初とは全く異なる気配。遭遇した時は威嚇程度、殺す気は本当に無かったんだと感じた。それ故になぜ、ここまでの威圧感を今になって出している!?俺には目の前の男の心境の変化が理解できなかった。


 俺は逃げ出すため、その場から立ち上がり男と対面した時、右腕の痛みから足がふらつき体勢を崩してしまう。

 「では———処刑を執行する」


 その言葉の後に、男は自らの剣を空高く掲げていた、これは剣を振り下ろすモーションではなく、下から上へ剣を振り上げた後の余韻———男は目にも止まらぬ速さで剣を振り抜いていたのだ。


 「ぐっ!!」

 男の斬撃は、俺の鎖骨と右肩の間に傷を負わせたが、男が剣を振り抜く前に体勢を崩したおかげで致命傷は免れた。だが、またしても俺の身体は地面に倒れてしまう。


 もしも、足がふらつき体勢を崩さなかったら———俺の頭は縦に割れていただろう。


 「一撃では無理だったか」


 そう呟くと、男は剣を持った状態で目を閉じて硬直している。


 まただ———処刑を宣告する前も、お祈りをしていたし、今回も刃を振るう前に固まっている……もしかして、特定の行動をとる前に硬直するという、制限があるのか?


 俺はこの違和感について思考を落とそうとしたが———ダメだ!!!今は逃げるのが最優先!!男が明確に俺に対して殺意を持っている限り、話し合いで解決できない。


 男の行動に制限があるなら、硬直している今のうちに少しでも距離を取らないと!!そう思い、立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。

 先程もらった剣撃に恐怖心を植え付けられ、腰が抜けてしまい、俺は立つことができなかった。


 頭では幾らでも思考できるが、身体が恐怖心に負けている。

 右腕、右肩の痛みを抑えて、かろうじて動く左腕で地面を這いながら、身体を動かす。


 少しでも男から距離を取るために———必死でもがく。


 何処の方向へ逃げるという考えもなく、地面を這っていると目の前に二つの楕円形の物体がある事に気づく。


 「———!?」

 そう———これは切断された父と母の頭部だ。


 いつの間に………。俺は恐る恐る後ろに視線を送る。すると、コートの男から大して距離が離れていない事を知る。


 「ははっ…これっぽっちかぁ……」


 必死でもがいても、少ししか移動していなかった事に絶望感……というよりも諦めに近い感情を抱いた。


 俺は無我夢中で、目の前の二つの頭部を左手で抱き寄せた。父と母の顔についている血や土を丁寧に払い、そして———自らの瞼を閉じた。



 『死ぬなら家族の一番近くで。』



 これは最後の願いだった。


 「もう…いいよな」


 俺は静かに呟いた。

 どう足掻いても死ぬなら、最後に楽しく家族で過ごした記憶を思い出そう。

 そう考えていたが、驚くことに家族の思い出が蘇るよりも先に、頭の中に浮かぶのは———ロイの安否だった。


 心残りがあるとすれば…ロイの行方だが、今の俺にはどうすることもできない。


 ロイ……できることなら、ロイがどこかで穏やかに暮らせますように。


 あぁ……もうそろそろ男の硬直が終わる頃だ。


 “よくも我が子を”


 頭に響く言葉。この言葉は俺が発したものでも、コートの男が発したものでも無い。


 ———この声は、俺が生まれてから初めて聞く声色だった。


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