13話 ロイと森の女
「もう一度聞く、どこの所属だ?仲間は何人だ?これが最後だ、この質問に答えなければ尋問に掛ける。嘘を騙った場合も同様だ」
男が再び問いかけてきた。これが最後…?この質問を無視したらどうなるんだろう?
警告も無しで、いきなり蹴りを入れてくる相手だ……何をしてくるか分かったもんじゃない。
でも………ロイが生きているかもしれないから、ロイについては知られないように、質問には最低限のことだけ話そう。
「出身国はバトメ、仲間は居ない。というか少年兵でも無い」
男の質問に俺はできるだけ簡潔に返答した。
目の前の男に畏怖の念を抱いていたが、何も喋らなければ再度、男から敵意が飛んできそうだったので声を絞り出した。
「…………そっちがそういう態度を取るなら、私もそれなりの態度で相手をしよう」
男はそう言うと、俺に向けていた剣を帯刀した。
「こちらに背中を向けた状態で立て。両手は頭の後ろだ」
剣を納めた…?誤解が解けたのか?
「はやくしろ。私は今日、非常に苛ついているんだ」
男は冷たい口調で、再度促してくる。
これ以上、固まって居ると蹴りが飛んできそうだったので、男の指示に従って立ち上がり両手を頭の後ろに置いた。
まただ、この感覚———今度は背中が狙われている!
俺は敵意を察知し、背中から腰までを局所的に魔力で強化した。
突然———背中から胸の中心にかけて、衝撃が走る。
「なっ!?」
魔力で強化したにも関わらず、これまでとは違う衝撃が身体に走る。
その衝撃に耐えられず、全身の力が抜けてしまい放心状態で前方の地面に頭から倒れてしまった。
突然訪れた衝撃の余韻の中で、身体の奥底にこれまであった"なにか"が失われたような、そんな感覚に襲われていた。
なんで!?何故この男は攻撃してくるんだよ!!?
何か返答をミスったか…?いや、さっきの質問に対して事実を言っただけだし、変なことは言っていないだろ!!!
「……かっっ、…がっはっ……かっ…」
声にならない声が出た。俺は息をするので精一杯だった。
衝撃の余韻が収まってきたので、楽な姿勢になろうと仰向けになった。
そして———空を見上げるとコートの男が俺を見下ろしていた。
「…な……なんで…」
コートの男を見上げながら声を出す。
「なんでだと?無駄な駆け引きに使っている時間は無いからだ」
男は淡々と返答した。
この男は俺が嘘をついていると思っているのか?
そんな勝手な決めつけで俺を攻撃してきたのだろうか!?だとしたら、自分勝手にも程がある!!!
「……ふ…ふざけんな!!ちゃんと答えただろ!!!」
「正しく答えていないから、こうなっているんだろう?」
今の会話でやっと理解できた。こいつは自分の望む答え以外は受け付けないで、気に食わない返答だったら容赦なく攻撃するつもりだったんだ。
クソ野郎……真面目に対応した俺が馬鹿みたいじゃないか。
「さて…無駄な時間を過ごしている時間も無いので尋問に移ろうか。」
「…尋問って、さっきから俺は嘘をついていない!!」
「出身はバトメか…王都に君のような少年兵が居るという情報は無いんだがな。では仲間は何人居る?さっきみたいに嘘は吐くなよ。」
「だから!嘘は吐いてないって言ってるだろ!!出身はバトメだし、そもそも少年兵じゃ無い!!!」
瞬間、男から冷たい敵意が飛んできて俺の腹部に突き刺さる。
俺は腹部に魔力を込めて防ごうとしたが………おかしい、魔力が籠められない。
いや、それだけじゃ無い。———周囲の魔力を知覚できない。
何故?いつからだ?そう思考を巡らせていると、腹部に強烈な痛みが走った。
仰向けになっている俺の身体に、男のスタンプが突き刺さったのだ。
「ごっ…が…っ!!」
なんなんだ!?この衝撃は!!?腹が痛い!痛い!痛い!!
衝撃のあまり、俺は血反吐を吐いていた。
俺は横向けの姿勢になり、身体を丸めて踏みつけられた腹部を必死で手で押さえた。
けれど、痛みの余韻が止むことは無く、重い痛みが腹部を支配していた。
「私は仲間は何人居るか聞いているんだ。それ以外のことは聞いていない。もう一度聞く、仲間は何人だ?」
「………い…いない…」
腹部の痛みを抑えながら声を振り絞る。
またしても敵意が飛んでくる。まただ、今度は———背中だ!!
男の蹴りが俺の背中に衝撃を与えるが、腹部を押さえて身体を丸めていたので、その体勢のおかげもあり背中がジーンと痛むが、思ったよりも身体へのダメージは軽減できた。
俺の頭の中に一つの疑問が沸いてきた。
さっきと今回の男からの攻撃は予測出来ていたのに、ガードは間に合わなかった。
魔力を込めてガードするのと、実際に受け身をとって防ぐのでは、やはり魔力を込める方が速いのだろうか?
そんなことを考えていると、腹部の痛みが段々と治まってきた気がした。
痛みを紛らわすのに、別のことを考えるのは良い手段なのかもしれない。と思ったが……俺の身体が痛みに慣れてしまい、頭が錯覚しているのかもしれないが。
「君はなにか勘違いをしているようだが、私が何の根拠も無く尋問していると思っているのか?君に仲間が居ることは知っている」
なんだと…!?男の発言を聞いて悪寒が止まらない。
今日、俺が出会ったのはロイと森で遭遇した女だけだ。
こいつはロイと森に居た女の存在を知っているのか!!?
待て、考えろ!こいつは俺をに対して、探りを入れているだけかもしれない!!
第一に、ロイは森から林に戻るまでの間、魔力を使っていない。それに、俺が知るだけでも今日は朝の鍛練の時しか使っていないはずだ。
森に居た女は……奇妙な術を俺に使ってきたから、俺の身体に残る女の魔力を感知して、仲間が居ると決めつけている可能性はある……。
思考を落としている際に、ふと目を開けると月明かりに照らされて、今日の立ち会いでロイに負かされた風景が蘇る。
そういえば、あの時もこんな風に疲れ果てて地面に横になったな。
ん……待てよ!朝の鍛練の時って……ロイはここの"鍛練場"で魔力を使っている!!
もしも、この男が魔力の痕跡を人では無く〝場所〟でも知覚できるとしたら………可能性はゼロじゃない!!!?
だけど、そんなこと可能なのか!?朝の鍛練から、もう9時間以上経っているはず。
しかも、行った鍛練は体内の魔力操作だ。そんな僅かな要因から、魔力の痕跡なんて残るのだろうか?
少なくとも、俺はこの場所からロイの魔力の痕跡を感知することは出来ない。
それとも、この男がここに来るまでにロイを見つけているから、そういう質問をしているのか?
その場合は、この男の性格上ロイはただじゃ済まないだろう……見かけたけど、そのままスルーしたとも思えないし、俺に対して今やっているように尋問したと思う。
ロイが鍛練場から家に向かって、それほど時間は経っていない状況でコートの男が来たから、この可能性はかなり低い。
俺の中で考えれば考える程に、疑問が沸いてくる。
……考えないようにしていたけど……森で出会った女のことを言っているのだろうか?
でも———その場合は違和感がある。
女は森に居たが、おそらくカナリスの方向から来たと思われる。というか、カナリス方面から来た以外あり得ない。
バトメの王都→ヘレス郡→ヘレス郡の外れに俺の家→鍛練場のある林→森(バトメとカナリスの空白地帯)→カナリス方面、ざっくりした順番だとこうなっている。
つまり、森で出会った女がバトメ方面から来て森に居た場合は必ず、わが家と鍛練場のある林を通過する必要があるが………そんな不審な人物が通った形跡は無かった。
少なくとも、俺とロイが森から鍛錬場に戻るまでの経路に痕跡は無かったと言える。
そもそも、“俺が物心ついてから家族以外の人間が家、林、森の間を行き来した者は一人も居ない”。
必然的に、コートの男はバトメの方向から来ているため、森で出会った女とは面識が無いと思う。
もしくは………何かしらの能力によって、この場所で『魔力を使ったものが二名居る』という事実のみ知覚している?
そうだ!あり得ない話じゃない!!
ロイはよくこう言っていた———『この世には生まれながらにして祝福とは別の"特異な能力"を授かっているものが居る。』
コートの男の嘘だと思いたい……だが、それと同時に事実の可能性もある。
それは、この男と接触してからの行動だ。明らかに何らかの確証があった上で尋問しているように思う。
そうじゃないと、男のこれまでの行動は納得できない。
思い出せ!思い出せ!!今日のあった出来事を!!!
混乱している頭の中を一つ一つ整理していく。
そういえば———森で女に追われたときに、何かしらの術を掛けられている!!その術のせいで、森で身体が動かなくなったんだ。
さらに、その少し後に“さっきの術よりも強力な術を掛ける”こんなことを喋っていた気がする!!
俺はなんで、こんな大事なことを忘れていたんだろう……!?
そうだ!!その直後に奇妙な羽の生えた生物?が来て、その生物を追いかけて女は消えていった。
ラプトムルランの脳内に森での出来事が蘇る。
コートの男が俺に対して一方的に“仲間が居る”と決めつけているのは………おそらく、森で出会った女の術が俺に掛かっていたのが原因………ということか……?
そもそも、ことの経緯を男に説明したところで、俺を開放してくれるのだろうか?




